どうも、皆さんこんにちは!eイヤホンの、ののです!

 

今回も「【DAPの良さを広め隊】DAC編」と称し、今回もDAPの心臓部である「DACデジタル-アナログ変換回路)」を中心として話を進めていきます。少しレベルが上がります。

 

バックナンバーは以下にて!

 

【DAPの良さを広め隊】DAPのスペックにある「DAC」って何?(DAC編①)

【DAPの良さを広め隊】DAPで見る「DACチップ」の代表的なメーカー(DAC編②)

 


 

まずは前回のおさらいをしましょう!DAC編②では、「DACチップ」を製造するメーカーの代表例を紹介させていただきました。それは以下の4メーカーです。

 

旭化成エレクトロニクス(「AK…」の型番で有名)

ESS Technology(「ES…」の型番で有名)

Cirrus Logic(「CS…」の型番で有名)

Burr-Brown(「PCM…」の型番で有名)

 

DAPのスペックを見たとき、DACの項目に「AK4490」という型番が書いてあれば「AK~」なので旭化成エレクトロニクス製のDACチップなのだな、といった具合に判断ができるという話でした。

 

そして、こういったメーカーが製造して供給するDACチップは、どのオーディオ機器メーカーも使用することができるので汎用的なDACチップである、と考えることができます。たとえば「AK4497EQ」を搭載しているPLENUE 2やPAW GOLD TOUCHは、最終的な音質自体はもちろん違うけれども使っている「DAC」に限っては共通した素子、と言えるわけですね。

 

 

では今回お話しさせていただくのが何かというと、その汎用的な「DACチップ」を搭載していない、あるいはそれに近いDAPやアンプが存在するということです。つまり特殊な処理の仕方を行うものだったり、メーカー独自の手法でデジタル-アナログ変換を行う製品だったりというものをご紹介できればと思います。

 

そんな汎用的なDACチップを搭載していないややこしい事例は、だいたい以下の2通りがほとんどです。

 


 

フルデジタルアンプを搭載している場合(SONYのウォークマンなど)

②FPGAなどによって自社独自のD/A変換論理回路をプログラムされている場合

 


 

 

一応今回は、「DAC」というパーツについて説明するのに必要なので、場合によってDAPではなくヘッドホンアンプなの製品ども紹介させていただきます。ヘッドホンアンプとはプレイヤーに内蔵されているパーツとしてのアンプではなく、アンプの機能専用の用途で作られている製品のことですね。

 

 

ではまず、おそらく皆様ご自身か、ご友人のどなたかは持っていそうなSONYのウォークマンにまつわる「フルデジタルアンプ」から説明していきましょう。

 

 

①フルデジタルアンプを搭載している場合

 

このDAC編の連載の一番最初の回では、以下のような図をお見せしたかと思います。

 

まずDACがあって、そこで出力されたアナログ信号をアンプで増幅する、という流れでしたね。

 


 

 


 

 

この説明図はDAPの最も基礎的なものであり、ほとんどがこれだと言って大丈夫なのですが、あくまでも原則的なものです。例外はあります。

 

その「例外」というのが「フルデジタルアンプ」で、デジタルのままいきなり増幅していくのが特徴となっています。つまりいきなりアンプなのです。DACはありません。これを視覚的に表すとだいたい以下のような感じです。

 

 

先ほども書いたように、この形式のアンプで代表的な製品は、SONYのウォークマン。

 

 

フルデジタルアンプの場合、一般的なDACチップを採用するプレイヤーとは信号の処理過程が根本的に異なっています。増幅の仕組み自体はD級アンプと似ていて、入力した信号をPWM信号などのパルスの形式の信号に一旦変換して増幅を行います。このときの信号の振幅は電源の電圧が関わってくるので、電源性能の重要度はかなり高くなります。増幅を経た後、最後にフィルタを通してオーディオ帯域の信号(いわばアナログ信号)を取り出すようになっています。

※D級アンプは「デジタルアンプ」と呼ばれることが多いですが、動作原理を考えると厳密には「スイッチングアンプ」というような表現のほうが適切かと思います。

 

フルデジタルアンプのDAPの回路を表した図では「再生機器」の手前に「D/A変換」のステップを入れているように、フルデジタルアンプによる信号の増幅を経た後の最終段階でデジタルからアナログに信号を変換する仕組みは内蔵されています。「この”D/A変換”がいわゆるDACじゃないの?」と思われるかもしれませんが、ウォークマンなどに搭載されているD/A変換の回路はコイルとコンデンサーだけで構成された物凄くシンプルなもので、普通の「DAC」ではありません。

 


 

【フルデジタルアンプのメリット】

 

①増幅の効率が良い → バッテリー消費量などが抑えられる

②デジタル信号からアナログ信号への変換精度が非常に高い

③アナログ信号で受けやすいノイズの影響は受けにくい

 

 

【フルデジタルアンプのデメリット】

 

①音源のノイズはストレートに「ノイズ」として増幅しやすい

②電源の性能が非常に重要

 

※いずれも回路の構成による。

 


 

「フルデジタルアンプ」は、そのシンプルな仕組みから増幅の効率がとても良いことがメリットになっており、発熱やバッテリー消費量も比較的少ないです。ウォークマンって他社製品に比べて明らかにバッテリーの持ちが良いですよね。また、デジタル処理の原理上、通常のアナログアンプに比べて出力段での応答速度が速く、かすかな音も埋もれずに再現できる特徴があるので、このあたりもアナログアンプとの音の違いに繋がっています。

 

他にも、アンプから出力される直前までデジタル処理を行い、アナログ信号となっている部分が短いため、回路上の熱雑音などアナログ信号に影響しやすいノイズも可能な限りカットできます。たとえば左右チャネルのクロストークが最小限に抑えられる利点があります。これはNW-WM1シリーズやZX300など、バランス出力に対応したDAPで相当の強みですね。DACチップとアナログアンプを採用する通常の構造でクロストークを抑えようとすると、物理的に回路をしっかり分離したうえで電気的にも互いに影響がないように構築しないといけません。「SONYのウォークマンはバランス接続で聴くと化ける」とよく言われますが、こういったことも関係しているのではないでしょうか。

 

 

 

※バランス接続とクロストークの関係については以下のブログをご参考下さい。

 

【DAPの良さを広め隊】バランス接続って???編

 


 

フルデジタルアンプはこうしたメリットがある半面、デジタルであるがゆえのデメリットも当然存在します。増幅する段階のスイッチングの精度が影響しやすいほか、応答性が良いので音源に入っている「ノイズ」をノイズそのものとして丸ごと反映しやすく、電源のノイズも拾いやすいのです。フルデジタルアンプを搭載するウォークマンもこういったデメリット面も考えつつ慎重に開発されているようです。

 

これについてもっと細かい話をするなら、フルデジタルアンプは回路的には「無帰還」であることが多い、ということが言えます。順を追って説明すると、普通のアンプの場合は、「負帰還(ネガティブ・フィードバック)」といって、出力したアナログ信号をもう一度入力に戻す回路が入っています。D級アンプも同じです。負帰還によって増幅した波形と入力波形を比較して差を補正することで、増幅のゲイン(入力と出力の比)が広い帯域で安定するなどより理想的な動作になり、歪みを軽減することができます。

 

そうした負帰還を採用するアンプに対し、フルデジタルアンプは出力したアナログ信号を入力に戻すわけにはいかない(入力からデジタルのフルデジタルアンプのため)構造であることから、普通に考えると無帰還の構造になります。効率はいいが安定しにくいのがフルデジタルアンプです。このため、「安定した電源供給ができるようにする」あるいは「出力した信号を再分析してデジタルフィードバックが行えるようにする」など設計上の様々な工夫が必要になってきます。例えばウォークマンの製品説明を見ていると電源に物凄くこだわっていることがわかる説明がちらほらありますよね。

 

 

ちなみに、フルデジタルアンプの製品ですが、「DAP」に限定すると2019年時点ではウォークマンしかないと言ってもいいです。DAP以外であれば、DENONのアンプ「DA-310USB」なども挙げられますので、フルデジタルアンプそのものに興味がある場合はこの製品の試聴もオススメです。ウォークマンのフルデジタルアンプは基本的に無帰還の回路なのに対し、DENONの「DA-310USB」などはデジタルフィードバックの技術が使われています。

 

 

 

②FPGAで独自のD/A変換をプログラムされている場合

 

2つ目の「自社独自のプログラム」ですが、こちらは1つ目に紹介したフルデジタルアンプよりは、DACチップに近いです。要は汎用的なDACチップは使わずに自社で回路を設定してDACのように扱うという手法ですね。

 

主にFPGAを使用したものが見られます。FPGAとは「field-programmable gate array」のことで、電子制御機能の大部分をデバイスの設計者自身が好きなように変更できる半導体のことをいいます。つまり「こういう論理で演算するように回路を組みたい。」というふうに考えがあれば、それをプログラムできるICなのです。今回の例であれば、デジタルからアナログへの変換に必要な論理回路をFPGAにプログラムします。DACの性能で音質は変わりますから、D/A変換に必要な演算方法に関して自社独自の理論やノウハウがあれば、FPGAでそれを独自に実現してしまうことで汎用的なDACチップを使用しないという選択肢が採れるわけです。

 

この手法で知られるのはCHORDというメーカーですね。CHORDはDAPではなく主に据え置きアンプやポタアンを製造するメーカーです。

 

 

たとえばこのHugo2とMojoはXilinx(ザイリンクス)というメーカーのFPGA「Artix 7」シリーズを使用していることが共通しています。Artix 7で処理した信号をパルスアレイDACという回路に送ってそこでアナログ信号にする設計になっていて、FPGAでのデジタル処理とパルスアレイDACの組み合わせで1つの「DAC」と言える構造です。このため、厳密にいうとFPGAだけでは「DAC」とは言えませんが、演算処理自体はFPGAで行うのでメーカーの手腕が特に表れるのはこのFPGAのプログラム部分です。つまりCHORDのこういった製品はデジタルからアナログに変換する部分まで全部含めて紛れもなくCHORDの音質だということができます。

 

よく誤解されますが、Hugo2とMojoが同じ「Artix 7」を使用しているというだけでは、DACとしての性能も同等であるということにはなりません。というのも、Hugo2はArtix 7の性能をフルに発揮している一方で、Mojoはサイズの小ささゆえに電源の制限があり、それに合わせたレベルの演算性能がプログラムされているためです。逆の見方をすれば、このようなそれぞれの製品コンセプトに合わせた「最適化」も、回路の設計者が自由にプログラミングできるICチップであるFPGAのメリットを最大限活用しているということになりますね。

 

 

なお、この「FPGA」という単語はDAPの製品紹介文においてもかなりの頻度で登場しますが、スペックを見比べる際に注意したいことが一つあります。それは、FPGAそのものの機能はあくまでも「電子制御機能の大部分をデバイスの設計者自身が好きなように変更できる半導体」であるということ。CHORDのように「DAC」としての回路設計に利用しているとは限らず、どんな機能で用いられているのかは製品によって違うので気を付けてください。

 

 

最後に

 

いかがでしたか?今回は汎用的なDACチップを搭載していないDAPやアンプの例をご紹介してきました。特にフルデジタルアンプは回路の作りが普通のDAPと根本的に違うので、内容がちょっと難しかったかもしれませんね。

 

これらのDAPやアンプは、汎用的なDACチップを使用しているDAPなどとはかなり音の質感が異なり、違いを感じ取りやすい部類の製品たちので、是非一度は聴き比べてみていただきたいです。

 

ちなみにアンプの試聴にはスマートフォンやDAPが必要ですが、もし忘れてしまってもeイヤホン店頭のDAPの試聴機を使っての試聴が可能ですので、お気軽にお越しください。

 

 

それでは、今回はこれにて!

 

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