どうも、皆さんこんにちは!eイヤホンスタッフの、ののです!

 

 

【DAPの良さを広め隊】DAC編、第1回の記事はご覧いただけましたでしょうか?「そもそもDACって何?」という根本的なところから話を進めていっていますので、DACのことがわからなくて困っていらっしゃる方は是非参考になさってください。

 

 

【DAPの良さを広め隊】DAPのスペックにある「DAC」って何?(DAC編①)

 

 

さて、今回もDACの話をしていきます!「DAC(ダック/ディーエーシー)」とは、

 

Digital to Analog Converter

 

の略称で、大まかに訳すと「デジタル信号をアナログ信号に変換するための回路」のことです。皆さんはDAPやスマートフォンで音楽を聴かれているかと思いますが、内蔵されている「音楽データ」はデジタル形式で記録されているので、実際の「音」というアナログ形式の波形を再生するためには一旦デジタル信号をアナログ信号に変換する必要があります。その変換の仕方で音の違いが発生してくる、という話を前回の記事でしました。

 

DAPの基本的な回路の構図です。(話を簡単にするためDACの前のDSPなどは除外しています。)

 

基礎的な内容は前回でお話しさせていただきましたので、今回は代表的なDACのメーカーについて話をしていきたいと思います。

 

「DAPの代表的なメーカー」なんじゃなくて「DAPに使われるDACの代表的なメーカー」の話なのでマニアックすぎる記事ですが…。高級なDAPになるほどDACを明記している場合が多いので、なんとなく「あぁ、このメーカーのものを使っているんだな」ぐらいの理解になればいいなぁと思って書いています。

 

 

代表的なDACのメーカー

 

今回具体的にご紹介するメーカーは、以下の4メーカーです。

 

旭化成エレクトロニクス(「AK…」の型番で有名)

ESS Technology(「ES…」の型番で有名)

Cirrus Logic(「CS…」の型番で有名)

Burr-Brown(「PCM…」の型番で有名)

 

有名なDACとそれを搭載した有名な製品例をご紹介しますので、生産終了品もちょこちょこ混ざっていますが、どんなDACを出すメーカーなのかということに関してポータブルオーディオという視点から参考にはなるかと思います。

 


 

 

※下記に掲載する製品の表示価格は閲覧時の実際の価格と異なる場合があります。また、「生産完了品」の参考価格は中古商品の価格とは異なりますのでご注意ください。

 

 

 

旭化成エレクトロニクス(AKM)

 

旭化成エレクトロニクスは日本が誇る代表的なDACのメーカーです。「AKM」と表記されることも多いですね。「AKE」じゃなくて?と思うかもしれませんが、実は旭化成エレクトロニクスの英語表記の社名は「Asahi Kasei Microdevices」なので、AKMはそれを略した呼び方ということになりますね。

 

この旭化成エレクトロニクスが製造するDACは、基本的に「AK(数字)」という型番をつけられています。この型番がプレイヤーのDACのスペックに書いてあったら、日本の旭化成エレクトロニクス製のチップです。なお、DAPのメーカーによってはスペック表にDACの型番を掲載するとき、社名をとって「AKM(数字)」のような表記で掲載する場合があります。

 

※表記上、旭化成エレクトロニクスのDACの型番「AK」と、Astell&Kernのブランド略称「AK」がかなり紛らわしいので、Astell&Kernは略さずに「Astell&Kern」表記のままでいきます。

 


 

【AK4490】

 

過去も含めると、ポータブルDAPの界隈で最も有名なのは2014年に発売された「AK4490」ではないでしょうか。このAK4490をデュアルで搭載したAstell&Kernのプレイヤー「AK380」は、後継シリーズの発売に伴い生産終了してしまいましたが、製品自体はマスタークオリティを持つ名機として今でも語り継がれています。AK380があまりにも有名になりすぎたせいで、AK4490を搭載したプレイヤーは他社製のものでも「あのAK380と同じDACを採用している(から気になる)」というような見方をされることも少なくなかったようです。DACだけで全てが決まるわけではありませんが、それほどの存在です。

 

AK380は中古市場で現在も入手することができますし、eイヤホンでも中古在庫があれば店舗で試聴可能ですので、是非聴いてみてくださいね。

 

 

 

ちなみに、AK4490は厳密に区別すると「AK4490EQ」と「AK4490EN」という二つの種類があり、後者のENはよりポータブルオーディオ向けに設計を最適化されたDACです。ただし、「EQ」という表記は省略されることがあるので、AK4490シリーズを使用するDAPが出揃った今となっては、ちょっとややこしいかもしれないですね。「AK4490」としか書かれない場合がある以上、リスナーからしたら単にAK4490で括ってしまうほうが気楽でしょう。

 

 

【AK4497EQ】

 

他には「AK4497EQ」という上位モデルも有名で、僕の愛機の「PLENUE 2」はポータブルオーディオでは世界で初めてそれを採用した音楽プレイヤーでもあります。PLENUEというプレイヤーシリーズの音作りの素直さと相まってめちゃくちゃ透明感のある音なので、満員電車で通勤するようになった今でも手放せません。前述のAstell&Kernブランドだと、「AK380」の後に発売された第4世代ハイエンドモデルの「SP1000」にもAK4497EQが採用されています。

 

 

また、Lotooの「PAW GOLD TOUCH」や、SONYの超ド級音楽プレイヤー「DMP-Z1」など、名だたる高級品にその名を連ねていますね。どの製品にも「AK4497」の文字が登場しています。今やポータブルオーディオ界ではハイエンドDACの代表格のようなメーカーですね(DMP-Z1はポータブルというよりキャリアブルですが…)。

 

 

 

余談ですが、ハイエンドばかりというわけではなく、例えばEarstudoのお手軽なBluetoothアンプ「ES100」にもAKM製の「AK4375a」が搭載されています。掌で転がせるサイズだと侮って聴くと、とても驚かされるほど高音質なアンプです。

 

 

旭化成エレクトロニクスは、2019年春に電流出力型として驚異の性能を秘めたDAC「AK4499EQ」を発表するなど、その躍進は留まるところを知りません。

 

 

ESS Technology

 

ESS Technologyはアメリカのメーカーです。基本的には「ESS」と呼ばれます。ESSのDACは「ES(数字)」と表記されることが大半で、「SABRE(セイバー)」シリーズという名前でも知られます。近年は8chなど多チャンネルのDACでも有名です。DAPはもちろんですが、アンプのほか、人気なPC用のサウンドカードなどにも搭載されていたりしますね。採用シーンが手広いです。

 


 

【ES9018K2M】

 

ポータブルオーディオ界だと、このESSの製品では「ES9018K2M」が有名ではないでしょうか。日本の音響機器メーカーであるONKYOが発売した「DP-X1」シリーズにデュアルで搭載され、アンプも「SABRE 9601K」とESS社製で揃えられていましたので、音質の良さと相まってESSという社名を日本で一気に広めた製品の一つではないかと思います。

 

 

【ES9028PRO】

 

ESSは次世代モデルとして「SABRE PRO」シリーズのDACもリリースしており、マルチチャネルかつ電流出力型の「ES9028PRO」や「ES9038PRO」がその代表製品です。

 

SABRE PROシリーズのうちES9028PROはFiiOの「X7 MarkII」に搭載されていることでも知られており、このプレイヤーはアンプモジュール交換機構でDACの音を活かしつつアンプの音の変化を楽しめるので面白い製品です。

 

 

また、iBassoの「DX200」も、日本国内での正式な取り扱いは少々遅れましたが、同じES9028PROをデュアルで使用していることで話題となっていました。こちらもアンプモジュールの交換機構を持っています。後継機種は「DX220」です。交換用アンプになんと真空管搭載型が登場したりと、何かと話題を提供し続けています。メーカーを跨いでモジュール機能を与えられているというのも、優秀なDACなのでその音を活かしたいという思いをみんな持っているからなんでしょうかね。

 

 

 

【ES9038PRO】

 

一方、ES9038PROは完全に据え置き製品での採用を前提としており、ES9028PROをさらに上回る性能です。その分消費電力も激しいスペックになっています。これを採用するのはほとんどハイエンドの製品で、Astell&Kernの第4世代では「SE100」、COWONのDAPでは「PLENUE L」と、話題の製品が多いですね。

 

 

さらに、ES9038PROをシングルならまだしもデュアルで搭載しようとしたAstell&Kernの「KANN CUBE」は、ポータブルDAPと言えるかギリギリなラインなほどのサイズ感になってしまいましたが、KANN CUBEは物凄くきめ細やかな音質が特徴なので、機会があれば一度試聴してみていただきたいです。

 

 

 

Cirrus Logic(シーラス・ロジック)

 

Cirrus Logic(シーラス・ロジック)はアメリカの半導体メーカーです。

 

ポータブルオーディオ製品に採用されるシーラス・ロジック製のDACは、ほとんどが「CS(数字)」の型番を冠しています。

 


 

【CS4398】

 

シーラス・ロジック製で有名なのは「CS4398」というDACで、これはAstell&Kernの第2世代フラッグシップDAP「AK240」にデュアルで搭載されています。

 

 

AK240は第2世代フラッグシップで、Astell&Kernの製品の中ではAK380よりも古い機種ですが、マスタークオリティにさらに寄せたと思わせるAK380と比較すると柔らかな音色が心地よいので、中古市場でもまだ人気があります。

 

AK240での実績をもとに、CS4398は「AK100II」や「AK70」にも採用されており、この2つの製品はAstell&Kern製のエントリーモデルとして高級DAP界に長らく君臨することになります。

 

 

また、AK70の後継モデルである「AK70 MKII」も、新旧フラッグシップの設計思想を受け継ぐというコンセプトで作られ、旧フラッグシップからはCS4398チップをデュアルで運用する形式を継承していました。

 

 

Astell&Kern製のエントリーDAPを買ったことがある層にとって、CS4398は意識せずとも聴き馴染みのあるDACかもしれませんね。

 

 

【CS43198】

 

Astell&Kernの第4世代では「SR15」というモデルがシーラス・ロジックの「CS43198」を採用しています。CS43198はCS4399の後継モデルで、前述のCS4398よりはもう少し後の世代です。

 

 

DACだけでなくアンプも含めての結果だと思いますが、声DAPと形容されるほどボーカルの艶感に独特な魅力がありますので、店頭に置いてあったら是非試聴してみてください。声DAPです。

 

 

Burr-Brown(バーブラウン)

 

Burr-Brown(バーブラウン)はDACのメーカーとしてはちょっと古いメーカーで、現在はテキサス・インスツルメンツというアンプなどでも有名なメーカーに買収されています。バーブラウン製のDACには「PCM(数字)」の型番がつく場合が多いですね。

 

ただ、バーブラウン製のDACは電力消費が大きいものが多く、採用例は据え置き製品を中心としているため、ポータブルDAPではそこまで見かけません。このこともあって、メーカー自体よく知らないという方も多いかと思われます。

 


 

【PCM1704】

 

バーブラウン製の古いDACで既に生産は行われていません。しかし、単に性能的に型落ちしたものではないどころか、むしろ今考えても凄まじい性能でしかない特殊なDACです。

 

このDAC、何が特徴的かというと、現在主流となっているDACとは動作原理が異なっています。

 

現在主流なDACは「ΔΣ変調(デルタシグマへんちょう)」という原理で動作するもので、一旦データを1bit形式に変調して処理することからDSD音源の原理に近いものになっています。それに対してバーブラウンの「PCM1704」シリーズはマルチビット方式で、PCM音源に近い原理で動作します。マルチビット方式のDACでは、音源データをまず1bitのデータに変換するというややこしいプロセスを挟まずに、直接D/A変換していきます。入力された値の大きさに応じて適切なスイッチングを行う素子を使うことでアナログ信号を出力するので、2通りの情報しかない1bitとは全く異なる原理になっていることがわかります。よく見るのは複数の抵抗を組み合わせた「ラダー(ladder)抵抗」と呼ばれる方式で、ラダー抵抗は抵抗網の構成から「R2R(R-2R)」や「はしご型」とも呼ばれます。

 

しかし、これは素子の精度が高くないと正しい信号にならないので、製造するのに極めて高い技術力を必要とします。というのも、前回の記事で説明したように、1bitであれば「信号がある」「信号がない」のような感じで2つの値のうちどちらかだけを表せればよいのですが、マルチビットということは例えば1から10まであるうちの1も2も3も全て正確にスイッチングできなければなりません。しっかりと実用に足るレベルの精度で24bit分のスペックを備えたチップは、作るのが難しく、ΔΣ変調型のDACと比較すると生産にはコストがかかりすぎるようです。

 

そんな幻のマルチビット方式のDACですが、HiFiMANの高額DAP「R2R2000」が24bitの「PCM1704K」を採用しており、バーブラウン製のマルチビット式DACならではの生々しい音を楽しむことができます。「R2R方式」のDACを使用した「R2R2000」。実はDACのスペックから考えると、このDAPの型番はそのまんまなネーミングなんですね。R2R2000の製品説明には”R2R DAC PCM1704Kチップの 世界で最後に残っている新品ストックを使用”とありますが、わざわざ古い型番のDACを採用したうえでこんな文章まで書いてあるのには、上で述べたような背景があるのです。

 

 

今や伝説とも言えるDACを使用した音なので、是非一度ご体感いただきたい音です。DAPの音質を極限まで高めることに本気すぎてシングルコア処理だったりと操作感を含めてだいぶ特殊なので慣れが必要そうですが…。このDAPをVictorのイヤホン「HA-FW10000」で試聴したときはその深い音色に惹き込まれました。好みは分かれるかもしれませんが、確実に唯一無二の音質だと感じます。

 

ちなみにR2R2000のジュニア的立ち位置で発売された「R2R2000 レッド」は「PCM1702」をデュアル採用しており、こちらは20bitのマルチビットDACです。さすがに最高峰の24bit処理「PCM1704K」に譲るかもしれませんが、マルチビットDACの音色は十分にお楽しみいただけます。

 

 

 

【PCM1792】

 

前述のPCM1704はマルチビット方式のDACですが、この「PCM1792」はPCM1704で培ったマルチビット方式の技術に加えて、ΔΣ変調による1bit処理を複合させたDACです。24bitあるうちの上位6bitはマルチビット方式、下位18bitは1bit方式で信号を処理するようになっています。「マルチセグメントDAC」と呼ばれることもあるようです。このPCM1792はLotooの「PAW GOLD」に搭載されています。こちらもなかなか堅物な操作性を誇りますが、SDカードによる大容量ストレージへの拡張性が強みで、音質の良さも一級品です。後継品の「PAW GOLD 2」も登場しています。

 

 

また、このシリーズのDACでいうとCOWONの「PLENUE S」に「PCM1792A」が搭載されていることでも著名で、COWONらしい繊細な音色の面影は十分残しながら、とても濃い輪郭の音になっているので、特にインストを聴く人に人気なDAPだったりしますね。

 

 

 

最後に

 

いかがでしたか?少し長くなってしまったので、ここでそれぞれのメーカーについて今一度おさらいしておきましょう。

 


 

旭化成エレクトロニクス(「AK…」の型番で有名)

ESS Technology(「ES…」の型番で有名)

Cirrus Logic(「CS…」の型番で有名)

Burr-Brown(「PCM…」の型番で有名)

 


 

DAPのスペック表の「DAC」の欄に「AK4497」と書いてあれば旭化成エレクトロニクスのチップ、というような感じですね!ご参考になれば幸いです。

 

 

ここまでにDACの代表的なメーカーをご紹介してきましたが、次回は「DAC」に関してもう少し踏み切った話、とりわけ中級以上と言えるような内容の話をしたいと思います。たとえば、皆様の身近でよく見るとあるメーカーのプレイヤーは「DACチップ」と言えるものを実は搭載していなかったりと、DACにまつわる世界は広い!

 

【DAPの良さを広め隊】、まだまだお付き合いいただければ幸いです。

 

それでは、eイヤホンスタッフの、ののがお送りしました!