前人未到の90万円超え! 『DMP-Z1』について、詳しくお話をお伺いしました!
だいせんせいです。
皆さん、先日発表された『DMP-Z1』はもうご存知でしょうか。
ソニーから発表された、『据え置き型音楽プレイヤー』。
価格にして90万円オーバーという、ヘッドホンアンプとしては未曾有の超高級機として登場。
その製品コンセプトには度肝を抜かれる反面、一度音を聴いてしまうと、不思議とその価格にも納得してしまうというクオリティの凄みがあります。
今回の記事では、そんな新たなる傑作に携わった3名の開発者の方々にお話を伺いました!
V&S事業部 企画ブランディング部門 商品企画部
田中 光謙さん
V&S事業部 商品設計部門 商品設計1部
佐藤 浩朗さん
V&S事業部 商品設計部門 商品設計1部
佐藤 朝明さん
本日はよろしくお願いいたします。
まずはインタビューを始めるにあたり、皆様が『DMP-Z1』においてどのような役回りをされたか、ご紹介頂いてもよろしいでしょうか。
田中と申します。
本商品の商品企画を担当しました。
佐藤浩朗です。
普段はウォークマンシリーズの音質設計のリーダーをやっておりまして、
今回は据え置きの製品となりますが、ウォークマンチームが設計したというところもあり、同様に音質設計のリーダーを担当しております。
佐藤朝明です。プロジェクトリーダーをやっています。
今までのハイレゾウォークマン、ZXシリーズやWM1シリーズといったモデルのプロジェクトリーダーを担当していました。
浩朗同様、今回DMP-Z1においても引き続き担当しています。
開発経緯
今回のこの製品ですが、価格がまあ……その、超弩級といいますか(一同笑)。
e☆イヤホン価格にして、税込で約92万円。
これが一体どういう経緯で開発されたのか、というところがまず気になるポイントではあるのですけども。
価格については、最初から「90万円越えの商品を作ろう」っていう話があったわけではなくて。
どちらかというと「最高の音質を作りたい」という目的、それに対する部品の積み上げから……ですね。
例えば、これ(ボリューム)ひとつとっても、アルプス電気株式会社さんから流通している商品で、価格としては大体5~6万円くらい。
加えて、我々独自のカスタムをお願いしていたりもするので。
そうやって、色々とパーツを積み重ねていくと……。気付けばこの価格になっていた(一同笑)。
あくまで結果として、なんですね。
Signature Seriesのコンセプトが元々そうですけど、考えられるものを全部詰め込んで、持ってる最高の技術を全部投入して出来上がる商品。
いわばフラッグシップの中のフラッグシップ、という位置づけなので。
「音のためにどれだけの技術を投入できるか」というのがポイントになりました。
このボリュームも、当初は「アルプスさんの『RK501』っていうボリュームがスゴいよね!」っていう話から始まったんですけども。
色々いじっているうちに「カスタムするともっと良くなるんだ」っていうところに気付いて、途中から「これはカスタムすべきだ」というところにまで、変化してしまいました。
なので、アルプスさんのハイエンドのボリュームを使いたい、というのは元々あったんですけど、最終的にどういう仕様にするかは作っている最中で音を聴きながら決めていって。
構想の段階ではひとつのアイデアとして出していたものを、実際に聴いて実験しているうちに音が良くなって、本当に使いたいと言い出す、それをひとつひとつ、企画担当とプロジェクトリーダーで、価格を見ながら決めていきましたね(笑)。
「コストと音質のどちらを取るか」を、一個一個のパーツで決めていくわけなんですけども。
そこで「これはコスト超えちゃってるから安い方にしよう」というのは、出来ないモデルなんです。それをやってしまったら、この商品として成り立たなくなってしまうので。
ウォークマンとしてでなく、据え置きの音楽プレイヤーとして開発した理由はなんですか?
我々は元々ウォークマンを開発しているチームなんですけど、今回は携帯プレイヤーとして使うものではないので、当然、ウォークマンブランドではありません(笑)。
ウォークマンはその名前の通り、移動しながら聴いて頂くような商品です。
そのため、どちらかというと外使い用のイヤホンとの使用をメインに想定しています。
ただ、最近のウォークマンは品質も上がってきて、お家でじっくり傾聴されるという方も増えてきているんです。
一種のホームオーディオになりつつあると。
そうなんです。
そうなると、据え置きのヘッドホンアンプなどと比べて、ウォークマンのパワーではちょっと物足りないというケースも出てきてしまいます。
最近はe☆イヤホンさんでも、ヘッドホンアンプとハイエンドヘッドホンのコーナーが人気ですよね。
実は私も結構お店に伺っていて、色んなヘッドホンとアンプを繋いで聴いてみるのが好きなんですけど(笑)。
おお……! ありがとうございます(笑)。
ハイエンドな室内用ヘッドホンは、据え置きのヘッドホンアンプ等をリファレンスにして設計されている製品が多く、インピーダンスも高く設定されていて、ウォークマンではなかなか鳴らしきれない場合があります。
その一方で、「なんとかウォークマンでハイエンドヘッドホンを鳴らしたい!」というお客様もいらっしゃいました。
ウォークマンとの間にアンプを接続したり、色々試行錯誤されている、というお声も聞いていました。
そこで考えたのが、移動中のリスニングシーンというのは思い切って無くして、室内でのリスニングに特化した商品。
お家の中でしっかり聴ける環境というのを、我々で提供したい。そういったところが、開発のきっかけでした。
なるほど。
しかし、最近のデスクトップオーディオの主流って、手軽さがウリにされているものが多いじゃないですか。
例えば「PCとUSBで接続するだけで、大きい出力が必要なヘッドホンでも手軽に聴けますよ!」というようなコンセプトのもの。
そういった製品が多く出ている中で今回のような製品を登場させるというのは、ちょっと凄いですよね。
USBで接続すると、PC側のUSBの出口、ケーブル、電源と、より良い音質で聴くためにはケアをしなければならない要素が多くなってしまいます。
一方で、全てがワンパッケージの据え置き型プレイヤーというのはなかなか無いのですが、ウォークマンとして考えると、当たり前のことなんですよね。
デジタルの出力からDACまでをベストな配置にするのは、得意な分野なので。
そういうところで、据え置き製品をワンパッケージにするメリットというのは、元々考えていたところではありました。
それを本当に形にしてしまうというのは、驚きです。
ところでウォークマンと異なる点といえば、本機ではS-Master HX※が使われていませんよね。
(※S-Master HX:ウォークマン等に搭載されているフルデジタルアンプ『S-Master』のハイレゾ対応版)
今回は(S-Master HXを)採用していませんが、ソニーが使うのをやめてしまったということではありません。
これからも使っていきます。それこそ『NW-WM1Z※』とかも素晴らしいサウンドを出してくれていますし。
しかしS-Master HXだと、半導体の制約でどうしてもこれ以上のパワーが出なかったんです。
そこで出てくるのが、アナログのヘッドホンアンプの採用。これなら今すぐに実現できると。
(※NW-WM1Z:2016年発売。現行のウォークマンシリーズのフラッグシップモデル)
しかし、いくら技術のあるウォークマン開発チームといえども、
主軸をパッとアナログアンプに切り替えるのはなかなか大変なのではないでしょうか……?
実はアナログアンプに関しては、『DMP-Z1』の開発をきっかけに始めたのではなくて。
実は『NW-ZX1※』の頃から検討はしていました。
(※NW-ZX1:2013年発売。ソニー初のハイレゾ対応ウォークマンにして、当時のフラッグシップモデル)
なんと!
じゃあ本当に、ハイレゾウォークマンの初期の初期から検討されていたんですね。
『NW-ZX1』の開発当時、S-Masterをハイレゾ化する実験の際、既に「アナログアンプだったらハイレゾに出来るよね」という話はあったんです。
しかしS-Masterでやったほうが省電力性という面でも優れていますし、音源に入っている音をそのままデジタルで増幅させて、非常に細かな音までしっかり聴こえる、という音の傾向性のメリットもありました。
そういう経緯があり、アナログアンプもデジタルアンプも、『NW-ZX1』の開発時からずっと検討を続けてきました。
今回の製品でアナログアンプを採用することで、その蓄積された技術をかなり入れ込んでます。
ウォークマンチームがずっと研究してきた技術が、据え置きの製品で日の目を見た、ってことなんですね。
なんだか、不思議な巡り合わせを感じます。
ウォークマンチームで持っている技術でいうと、もうひとつ大きく活かされているのが、今回のコンセプトでもある「バッテリー駆動」というところです。
ウォークマンはいつもバッテリー駆動なので気付かなかったんですが、ACから電源を取る機器と比べると、バッテリー駆動はノイズとの戦いが少ないんですよ。
「あ、バッテリー駆動って、ノイズが入ってこないんだ」っていうところに、改めて気付かされて。
AC電源の機器だと、先程浩朗が言ったように、電源やUSB接続の部分などをケアして音を良くしていくというプロセスが必要になる。
オーディオ的には、そういうところも面白いんですけどね(笑)。
「最高の環境で聴くためには、皆さんがケアをしなければいけない」というところが、ウォークマンだと要らないんですよね。
例えば、充電されたNW-WM1Zとヘッドホンがあれば、どこの国のどこの場所でも、同じ環境でその音が聴ける。そういった発想を、据え置きの世界にも持ち込められればと思ったんです。
お客様がケアをしなくても、最高の音質が簡単に実現できる。
そこがひとつの大きな気付きであり、新しいコンセプトになっていて。
このサイズなのにバッテリー駆動というところの、大きな理由になっています。
我々の理想とする音質が一台で完結して、後は好きなヘッドホンと組み合わせるだけで提供出来る。そこが新しい価値だと思っています。
バッテリーの話もそうですし、後は「アンプとプレイヤーが一体化している」というポイントも大きな特徴です。
もちろんお客様が(アンプとプレイヤーの)組み合わせを選びたい、という考えもあるかと思います。
ただ、一体化しているメリットとして、基板上で我々が理想的なパターンで信号間のやり取りが出来る。
我々の考えとしては、元々の音源を1bitも狂わせずにピュアなままDACまで運ぶ、というのが理想だと思っていて。
今回の商品では据え置きながらそれが実現していますから。そのピュアな音質を楽しんで頂きたいと思います。
あと、PCオーディオなどであれば、プレイヤーアプリによる音質の差というのも出てくると思います。
これに関しては見て頂くとわかりますが、本当に、ウォークマンそのもの。
ほぼ、ウォークマンですよね。
ずっと開発してきて、使いこなしているプログラムですので。
安心して使って頂けるかなと思います。
後は外部プレイヤーも、全く繋がらないわけではありません。
USB-DACとしても動きますので、お好みのケーブルやプレイヤーをお持ちの場合には、組み合わせ使って頂いても面白いのかな、と思います。
でも、あくまで単体駆動が主の製品なんですよね。
外側のソースを引っ張ってくるよりは。
そうですね。
そう考えるとなんか、すごく不思議な製品ですね……。
あえてカテゴリ分けをするのであれば据え置きアンプという扱いになるんでしょうけど。
なんかこう、例えるなら、ジュークボックスを現代の技術で再発明したような、全く新しい音楽製品のような感じがしてなりません。
そんなわけで、今回はそんな全く新しい製品『DMP-Z1』について、こだわりの全貌を教えて頂けたらと思います。
3年がかりのバッテリー構想
ハイエンドの据え置きアンプの電源って、必ずデジタルとアナログでトランスから分かれていたりするじゃないですか。
それをバッテリーでやりたかったんですよね。
……なるほど?
せっかくきれいなバッテリー電源なんだから、それをまたデジタルとアナログで分けてしまえば、より良くなるに違いないと。
で、まあ、言うのは簡単なんですけど。電源の担当には非常に苦労をかけてしまってですね(笑)。
プラス側からマイナス側の電源を作るためにはDC/DCコンバータを組み込んで、反対側の電圧を作るんですけども。
しっかり作り込めば良い音にはなるんですが、組み込まないに越したことはない。そういうところで、プラス側の電池とは別に、マイナス側の電池も搭載することになりました。
この考え方も、言い出したのは三年くらい前ですよね。
それくらいになりますね。
我々は、ポータブルアンプも作っているじゃないですか。
PHAシリーズ※がありますね。
(※PHAシリーズ:ソニーのポータブルヘッドホンアンプシリーズ。最新モデルは2016年発売の『PHA-2A』)
アナログアンプをもっとピュアに鳴らすための検討で、PHAシリーズの開発チームでも「バッテリーを分ける」という発想があって。
そういったアイデアも含めて、ウォークマンチームとPHAチームの技術の合体のようなところはありますね。
バッテリー自体は、合計でいくつ積んでいるんですか?
パックとしては、3つ。
デジタル系統用にセルが1つのパックを1つ、アナログ系統用にセルが2つのパックを2つ積んでいるので、
セルの数としては1+2+2で5つということになります。
中でもやはり、アナログ系統用のマイナス電源を積んでいるというのがポイントですね。
デジタルとアナログでバッテリーを分けるというのは思いつきやすいですが、ここまでやることはそうそう無いと思います。
バッテリーをマイナス電源で使うという発想は、ある意味、乾電池に近いかもしれませんね。
乾電池を2本くっつけて、それぞれプラスとマイナスを担当させているようなイメージです。
ただ、乾電池なら、差し込むだけですぐに電圧が出るんですけども(笑)。
セルを充電して、しかも充電している間は他の電源で動かして、充電が終わったらまた元に戻すとかっていうのを、電気的に切り替えながらやっていたりするので。結構手間がかかっています。
やはり、バッテリーで駆動している状態が最も高音質になるのでしょうか。
先程言っていた『DC/DCコンバータが要らない』というところがひとつ、大きなコンセプトになっていて。
最近はローノイズで高性能な電源ICが沢山開発されているので、ローノイズの電源ICで、電源回路ノイズを少なくする、というのが一般的です。
ただ、バッテリー駆動でプラスとマイナスを分けてあげると、本当にノイズレスの世界を作れる。
回路設計としては、ちょっと普通のオーディオの設計とは発想が違うところに持ち込めたと思います。
もちろんバッテリーと電源回路を使いこなすのは非常に難しい技術が必要です。
ただ、ウォークマンというのは、必ずバッテリー駆動ですので。電源担当のノウハウが違うんですね。
普通のホームオーディオの設計とはまた違った、ウォークマンチームならではの技術、という部分もあると思います。
ホームオーディオだと、AC電源からいかにキレイなDC電源を作るか、というところに集中するわけなんですよね。
そこで凄い電源回路を作れば、当然キレイなDC電源が作れるんですけど。
我々のアプローチは、そもそもの回路を不要にする。元からDC電源を用意すれば、それだけで済むという話です。
ただ、この電源の制御チップっていうのが、最後まで苦労したところで。
実は「本当にこれ出荷間に合うかな……」っていうところまで苦戦していたんですが、「大丈夫! 間に合う!」って言って、最後までケアし続けていました(笑)。
そのおかげで、再生中に駆動モードを切り替えられるようになりました。
AC電源駆動か、バッテリー駆動か、っていうことですよね。
電源をつなげると、通常はAC電源モードになります。
そのままバッテリー駆動モードに画面上で切り替えることが出来るんですけど、再生中だと、切り替えるのに10秒くらいお待たせするんです(笑)。
電源を止めて、切り離して、放電して、また繋いでっていうのをですね。安全かつちゃんとやるために、時間をかけて切り替えています。
なので、「カチッ」とは切り替わらなくて。ステップを踏んで切り替えるような仕組みになっています。
仕組み的にも複雑なんでしょうけど、
その切り替えでも違和感が無いように、音質面を磨き上げるのも大変な苦労がありそうですね……。
H型シャーシ
筐体構造についても教えて下さい。
当初はデジタル基板とアナログ基板が横に並んでいる、平たい形だったんですけど。
最終的には真ん中に鋼材を残す『H型シャーシ』という構造を採用しました。
これが元になるアルミの押し出し材で……。
ほぼ、建材ですよね(笑)。
『足場』って感じがしますね(一同笑)。
そこからさらに削り出していったのがこちらです。
(持ち上げて)あ、結構軽くなりましたね。
実はこの製品、こう見えても軽量化を考えておりまして(一同笑)。
十分な強度をとって、少しでも軽くなるように設計しています。
肉抜きのような。
確かに、最初のやつと比べるとだいぶ違いますね。
構造としても、真ん中にバシッとアルミの板があることで、デジタルとアナログをガッチリ分けられるというのは、非常に良い結果となりました。
上側にデジタル系のDAC、下側にアナログの大電力アンプを立てて。結構キレイな分かれ方が出来たと思っています。
じゃあ、薄型のDACとヘッドホンアンプを2台重ねて使っているような感じなんですね。
それを1つの筐体の中でやっていると。
そうなんです。
横並びに置くと、物理的にはキレイに分かれるんですけど。
ただ、上下に重ねることによって、セパレートはされつつ、それぞれのグランドの距離を近づける設計が出来るんですね。
平置きしていると、「このグランドとこのグランドを近づけたい」というときに遠回りになってしまうのが、
上下に重ねることによって、シャーシを介して最短の距離で双方のグランドが繋げられるというメリットがあって。
H型シャーシによって、「デジタルとアナログを完全に分けながらも、繋ぎたいところは最短で繋げられる」という、ちょっと面白い構造になっています。
あと、筐体サイズとしてもまとめられるメリットもありますよね。
そもそも、このボリュームを使っちゃったので、これ以上薄くならないんですよ(一同笑)。
最初このボリュームを持ってこられたときは、軽く引きましたけどね。「ホントに使うの!?」って(笑)。
あ、そうか。
「少なくともこのサイズ以上には厚くするのかよ」っていうことになっちゃいますもんね(笑)。
高級な大口径ボリュームの採用
冒頭で申し上げた通り、アルプス電気さんの『RK501』っていう50mm径のボリュームを採用しているんですが、
アルプス電気さんのラインナップとしては、その下に27mmとか、もっと小さい径のボリュームもあるんですね。
なので、一通りボリュームの聴き比べをやったんですよ。
ボリュームだけを、変えてですか!
でも、やっぱり聴き比べると、50mm径のものが最高に良いので。「これしかないね」と。
それはもちろん手触りとかだけでなく、音質として優れているということですよね?
音も、全然違うんですよ。
結局、可変抵抗なので。
DACから出てきたアナログ信号を、ボリュームを通して、抵抗値を変えて、アンプに届ける。
ここの品質によって全然音が変わってきてしまうというのが、この実験でも実感出来ました。
田中も、今はこんなふうに言ってますけど、当初は「本当に音が変わるの?」なんて言ってて(一同笑)。
正直、横にぶら下がっている回路で本当に音質に効くのか、という疑問視はあったんですけども(笑)。
1つの接点ってことですもんね。
オーディオ信号が流れる接点になっているので。
設計担当はそういう検討をいつもやっているので「いや、効くよ!」って熱弁するんですけど、そうでない人からしたら、やっぱり聴いてみないと分からないんですよ。
そこで一度聴き比べをしてみると、「これすごいね!!」ってなって、最終的には「じゃあ使おう」と。
コロッ、といってしまったんですね(笑)。
やっぱり、音に関する部品を決定するのって聴いた瞬間なんですよね。
今時を考えたら、普通はボリュームICを選択するのが一般的だと思うんですけども。
やはりヘッドホンアンプとして使うとなると、残留ノイズとかの問題が出てきて。綺麗な音を作ろうとすると、ものすごい電圧が必要になるんですよ。
そうすると、電力も食いますし……。何度も言いますが、こう見えても電池で動くんで、一応省電力性も考えているんです(笑)。
一方で、ロータリーボリュームの良いところは、電源が要らないことです。
これだけの品位のものを電源無しで出せるというのは、確かにサイズはちょっと大きいんですけど、今回のコンセプトとしてはベストでした。
理には適っているということですね。
でも、最初これを選んだときに「なんでこれを使うの!?」って、言われましたね。
周りがざわざわしてね。「本気で言ってる?」みたいな感じで(笑)。
アルプス電子さんも、最初サンプルを依頼したら「なんでウォークマンの部署でこれが要るんですか!?」って言われて(笑)。
売り手側からも疑問だったと(笑)。
それでも、一度聴いてしまった以上は、もうこれを使わないという選択肢はありませんでしたね。
高級感を突き詰めたデザイン
そんな巨大なボリュームも、「採用したからには」というか、むしろ本体のデザインを象徴するような存在感がありますよね。
デザインの考え方としては、機能美というか、音質のために採用された部品をそのまま見せていくというコンセプトです。
せっかくの重要なパーツなので、お客さんに見ていただこうというところで。
なるほど、それで今回は天窓的なものが付いているんですね。
液晶画面がガラスになっていて、その下に天窓が抜けて見えるようになっています。
デザインからは「表面全面をガラスにしたい」という提案もあったんですが、音質面を考えて、アルミを採用しています。
あ、じゃあ、この画面の周りってアルミなんですか……!?
あんまり光沢があるものだから、アルミ感があまりなくて。
そうですよね!?
「アクリルですか?」とも、よく聞かれますね。
「ガラスにしたい」というデザイナーの提案のもとに、光沢が出るよう研磨されています。
じゃあ、「ガラスに出来ないならせめてアルミをピカピカに!」ということですね。
正直、パッと見だと(ガラス部とアルミ部の)素材の差が殆ど分からないレベルで、ものすごく綺麗に仕上がっていると感じました。
そう思っていただけるとありがたいです。
我々も、「アルミってこんなにピカピカになるんだ」と思いましたからね(笑)。
ちなみにこれは、下まで全部同じようになってます。
……え。
じゃあ、これ裏面もピカピカなんですか?
そうです。ほら。
うわあ、本当だ……。
む、無駄にとは言わないですけど、なぜここまで。
デザインとして、統一感が大事ということでしょうか。
あとは「持ち運んだときとかに、チラッと見えるよね」という理由もあります。
完全な据え置きではないので。
あ、なるほど。
一瞬見えて、「裏面、ザラッとしてんじゃん(笑)」って思われると、良くないですもんね。
持ち上げたら手にも触れるかもしれませんし……。
確認しますが、これは塗料でツヤを出しているわけではないんですよね?
この仕上げは、アルマイト処理とラップ研磨によるものです。
NW-WM1Aの筐体などもそうなんですが、化学処理でアルミに細かい穴を空けて、染料を染み込ませていくような処理を行います。
DMP-Z1の場合は、さらにラップ研磨をかけるわけです。
それによってこの「黒い光沢」が実現するんです。
正直、最初は「出来るの?」なんて疑問視していたんですけど(笑)。
でも、どうしてもガラスじゃなくアルミにしたいというところで、なんとか実現させました。
音質的なメリットと、デザインチームのせめぎあいですね……。
あとは、このボリュームの金メッキもこだわりのポイントです。
以前ソニーがプリアンプを開発していた頃、松下さん(現パナソニック)が作っていたボリュームを使わせて頂いていたんですが、
その時もボリュームに金メッキを使っていて、非常に音質が良かったんです。
それを踏まえて、今回のボリュームにも金メッキを使ってみると、音が良くなったんですね。
ボリュームのメッキでも全然、音が変わるんですね……?
そうなんですよ。
これってガワですから、音とか通ってないんですけどね。
そこまで実験してみて、色んなメッキの種類を試してみたりとか。
凄い世界ですね……。
まあ、プラグのメッキとかでも音が変わりますし、取り立てて変なことでもないのか……。
あとは、脚もですね。
外側からは見えませんが、足のベースをビス止めしていて。その穴が真ん中じゃないんです。
あえて偏芯させることで、共振を抑えていると。
これは伝統的なものなので、脚を付けるとなると、エンジニアから「偏芯やったんだろうな?」って、すぐ質問が来るくらいで(笑)。
あとは、脚自体が3層構造になっています。
『ソルボセイン』という、アスリート用のシューズの靴底とかによく使われている衝撃吸収素材を採用していて。
それを同じ厚さで、あえて2枚に分けています。
同じ素材を1つの塊にするのではなく、2層に分けていると。
もちろん、それでも音が……。
違うんです(笑)。
ソルボセインはくっつきやすい素材なので、その上にさらに別の素材を重ねて、3層で構成しています。
『SRS-HG10※』を開発した関が、脚に対して非常にシビアで。
「おっ、ちゃんと3層にしてるね?」って、確認してくるんですよ(笑)。
(※SRS-HG10:2018年発売。h.ear go2シリーズのBluetoothスピーカー)
【SONY】NW-ZX300と相性抜群!? Bluetoothスピーカー『h.ear go 2』開発者・関英木氏&佐藤浩朗氏インタビュー!
『SRS-HG10』も、制震にこだわって作られてましたもんね(笑)
多岐にわたる、内部のこだわり
内部的なこだわりとしては、いかがでしょう?
やっぱりね、筐体が大きいほうが、音が良いんですよ(一同笑)。
普段はなかなか使えないような、ニチコンさんのFG(コンデンサー)とかも使ってます。
確かにこのサイズは、ウォークマンには積めないですね……。
本当はこれ、最初は「NW-WM1Zに使いたい」って言ってたんですけどね(笑)。
えええええ!
ウォークマンに、ですか!(笑)
入れて作ったら、形にならなかったのでやめました(笑)。
ただ、そういった検討をしていく中で、良いパーツであることは確認していたので。今回は満を持して使わせていただきました。
あとは、内部配線にKIMBER KABLEを使っています。
『MUC-B20SB1』の線材に似ているように見えますね。
実は、全く同じものなんです。
全く同じもの!
これも前の機種(NW-WM1Z)で入れようとしたら、フタが閉まらなくなって(笑)。
『NW-WM1Z』にもKIMBER KABLEが内蔵されてるんですけど、結局その時はインイヤー用の細いKIMBER KABLEを採用しました。
なので、「ついにこの時が来た」という感じです(笑)。
満を持して、フルサイズのKIMBER KABLEを使えたわけですね(笑)。
あと、今回もハンダを新しくしています。
手半田の箇所のみになりますが、今回は金入りのハンダを使用しています。
金入り……!
ただ、今回は手半田の部分が多いので。端子全部とか。ジャックとか電池とかもそうです。
電力の多いところとか、音がそのまま通るところなので、凄く音質的には有利になりましたね。
ちなみに、デジタル周りのところでいうと、特徴的なところはありますか?
大きく出来たことによるメリット……って言ったら変かもしれませんが、セパレートする面積が非常に大きいんですね。
最近はポータブルの音楽プレイヤーでも、デュアルDACで構成されているものが増えてきていると思います。
この『DMP-Z1』も当然、デュアルDACなんですけども。
デュアルDAC等のシステム構成って何のためにあるかっていうと、LチャンネルとRチャンネルのセパレーションを完璧に行う、というところですから。
そのコンセプトは筐体が大きければ大きいほど、真価を発揮するんですよね。
ずっとS-Master HXを使ってきて気付いたのは、あれは出力ギリギリまでデジタルなので、チャンネルセパレーションが非常に良いんですよ。
それがやっぱり、S-Masterの大きな特徴でしたもんね。
それをアナログアンプで超えるためには、デュアルDACは必須でした。
しかもガッチリ分けないとダメだね、ということになりまして。
優れたデジタルアンプを持っているのに、アナログアンプを作って。
性能が悪くなってしまうなんて話が、あってはなりませんから。
デジタルアンプのチャンネルセパレーションをしっかり超えるには、しっかり面積を取って、物理的に完璧にセパレートする。
この設計の結果として、アナログアンプなんですけども、チャンネルセパレーションが物凄いことになりました。
聴いたときに音場が広いだけではなくて、それぞれの音の定位がしっかりしていて、全部音像がしっかり視える。
そこがS-Master HXの凄いところだったんですけども、それをアナログアンプでも実現出来たというのが、大きな達成ですね。
広がり感が今までになく出ているっていうのと、一個一個の楽器が、ボヤけることなくクッキリとしている。
横の広さもそうだけど、高さまで凄いことになっています。
そうですね。このセットにしてみて、「高さが出たな」と感じています。
2chなのに面白いですよね。
高さと、楽器の一体感。
前後方向の平面的な音じゃなくて、立体感がある。楽器の音が立体に聞こえるっていうところまで来たので。
ヘッドホンのポテンシャルが高ければ高いほど、それが聴いて分かると思います。
そうは言っても、他社製のDACアンプを採用されることって、そんなに多くは無いですよね。
「頑張ってS-Master HX以上にしました」と聞く分には簡単ですけど(笑)、DACチップの選定など、大変なポイントは多かったのではないでしょうか。
今回に関しては、旭化成エレクトロニクスさんの『AK4497EQ』の音が製品コンセプトに合っているというところで、選ばせて頂きました。
「スイッチドキャパシター方式のDACは低域のパンチが苦手」みたいなイメージがあるかもしれませんが、このDACに関してはそこもガチッと出てるので。非常に面白いDACですね。
また、先程チャンネルセパレーションの話がありましたが、実はシングルエンドの出力までちゃんとデュアルで通っているんですよ。
普通、シングルエンドなら片方のDACを休ませれば良いはずなんですけど(笑)。
シングルエンドの時でも、LchはLch、RchはRch。非常に贅沢な造りになっています。
ジャックまで完全にセパレートされているということですね。
それはやっぱりシングルエンドであっても、効果が大きい気がします。
せっかくデュアルDACを搭載してるんだから、というところですね。
恐らく電力的には、片方を休ませたほうが絶対に良いんですけど(笑)。
バッテリー駆動ですもんね。電池持ちとかを考えれば、そうすべきだったと。
なので、そこも非常に悩んだんですけど。
最終的には「たとえシングルエンドだろうと、デュアルDACの性能はそのまま活かそうよ」ということになりました。
これがウォークマンであれば、もう少し省電力性を優先する場合もあります。
「シングルエンド時は片ch休ませよう」とか、そういうコンセプトにもなるかもしれません。
ただ今回の場合は、あまりバッテリー持続時間をアピールする製品でもないので。
音質を最優先する形で舵を切っています。
ちなみに、バッテリー持続時間はどれくらいなんですか?
画面をオフにした状態で、圧縮音源で10時間。ハイレゾで9時間ですね。
DSDの11.2MHzとか、負担の大きなものになってくるとだいたい8時間くらい。
おおよそ8~10時間を目処にしています。
……それでも、一般的なハイレゾ音楽プレイヤーぐらいの長さがあるような気がするんですけど(笑)。
ある意味、普通の音楽プレイヤーのバッテリーを5倍積んでいるような感じですからね(笑)。
外出先に持っていって、どこででも聴ける、ということを想定している製品なので。
せっかくここまでの機器を持ち歩いても、充電がすぐに無くなってしまったら意味が無いですもんね……。
本体に負けない、重厚なキャリングケース
持ち歩くといえば、付属のケースについても教えて下さい。
パッと見たとき、電子サックスかなにかのケースかと思ってしまいました(笑)。
あ! それ、嬉しいコメントです。
実はこちら、『楽器ケース』をコンセプトにイメージして作っているんです。
ギターケースなどをイメージして、内装の色を変えてみるとか、色んな話もあったんですけど。
最終的には黒にまとめてみました。
高級感があって、いいですよね。
ACアダプタも専用。これもポータブルで考えたら、非常に珍しいことなんですが……(笑)。
このケースで持ち運んでいただければ、どこまでも同じ音質を持ち歩ける、というのは、良いポイントだと思っています。
あと、「どこでも使える」というコンセプトを発表したあとにこのケースを見せると、だいたい大きな反応をもらえます。
「こいつら、本気なんだ」って(一同笑)。
カジュアルな使い勝手も充実
ソフトウェア周りのお話は、何かありますか?
今回は、Bluetoothレシーバー機能を搭載しています。
最近の『A』シリーズや『NW-ZX300』、『WM1』シリーズにも搭載された機能ですね。
大きな目的としては、「スマートフォンの音源をこのモデルに飛ばして、バランス接続で聴く」というところです。
最近の新しいAndroidOSだと、LDACを搭載しておりますので。
LDACでスマートフォンから繋いでもらって、LDAC経由でバランスで聴く、ということが出来るようになりました。
今までスマートフォンから直接ワイヤレスイヤホンで聴いていた音と比べると、劇的に違うと思います。
我々はいろいろな音響処理技術を持っているので。今までのストリームサービスの圧縮音源でさえ、もっと高音質に聴ける。
それを一回、みなさんに聴いて頂きたいなと。
今、『NW-ZX300』を使っていて、それこそBluetoothレシーバー機能を愛用しているんです。
カバンや胸ポケットに『NW-ZX300』を入れておいて、スマートフォンからワイヤレスで運用するような形で。
非常に使い勝手が良いんですけど、それをこの機種に落とし込むというのは……。
なかなか、ギャップが凄いことですよね。
音質を最重視される場合はやはり、USBでの無劣化の伝送をオススメしています。
ただ、やはり利便性も大事ですから。
Bluetoothで送っても、メインチップで受けて、音響処理をかけて、こだわったDACアンプのオーディオブロックを通して……。
そういう形で音を聴くことが出来るので、非常に手軽ながら、結構本格的に楽しく聴けるんですよね。
実はガラス面にNFCも搭載されているので、対応している機器であれば、ワンタッチで簡単にペアリングが出来ます。
そういうBluetooth周りの搭載って、音質的な弊害にはならないのでしょうか?
設計をしっかりやると、影響は殆ど出ません。
有りと無しでどちらが良いかと言ったらもちろん、無しのほうが設計はしやすいんですけどね。
ただ、それはウォークマンでやってきていることです。
小さな筐体内にギュッと詰まったところで、BluetoothやWi-Fiを搭載したモデルもありますから。
そこで培った設計のノウハウが活きていますね。
筐体スペースを大きく取っている分、これは設計しやすいくらいでした(笑)。
そもそもの話
しかし聞けば聞くほど、「良い音を簡単に持ち歩く」というコンセプトで『A』シリーズのように非常にコンパクトな製品を作っているメーカーさんが、
同時にこういった物凄い製品もリリースされるというのは、振り幅が凄まじいですよね。
(Aシリーズの開発の)隣で作ってますからね(笑)。
僕らがそもそも、ウォークマンの開発チームなので。
もっと言うと、完全ワイヤレスイヤホンの『WF-SP900※』なども、僕らが開発に携わっています。
(※WF-SP900:2018年発売の完全ワイヤレスイヤホン。強力な防水機能に加え、ストレージ内蔵で単体再生が可能)
そうか、音楽プレイヤーの機能が内蔵されてますもんね。
製品の幅の広さがすごすぎる……。
音質の技術を突き詰めることって、上のグレードの製品だけに恩恵があることではなくて。
そこで培った音質技術を、普及価格帯に展開するという良さがあります。
振り切って色々研究していくと、結構「これ(下位機種にも)使えるかもね」という発想が出てくるので。
後々にそういう応用が効いてくるというのは、凄く良いことですよね。
肝心の音質は……!?
さて、ここまでは、技術についての説明をいただきました。
肝心な音というところで、音質面にはどういった魅力があるのでしょうか?
今までは、S-Masterの持つ「細かく、かっちりしていて、広い」という特徴がありました。
今回の機種のコンセプトはそれと同じでありながら、アナログアンプによるパワーが付いたというところがポイントです。
ですから、あくまで今までの音作りからの延長線上にあると思っています。
あとは本当に、広さと定位の良さがちゃんと出ているかなと。
先程も申しましたけども、奥行きと高さというところが、やはりパワーによる恩恵なのだと思います。
筐体に関しても、「大きくて重いほうが音が良くなる」というノウハウがありましたので。
これだけの巨大なアルミシャーシを使えたところも、音質に貢献していると思いますね。
音が澄んでますね。クリーンなんです。
先程説明したように、余計な回路が一切無い状態で聴くことが出来るので。
あまり聴いたこと無いなあと感じるほど、澄んだクリーンな音。私も最初は驚いたほどです。
加えて、チャンネルセパレーションをしっかり設計してもらっているので、これまで体感したことがないような広さが感じられます。
手前味噌になってしまいますが、今までヘッドホンが鳴らせなかったような音が鳴っているんじゃないかと思います。
お客様にはぜひ、お手持ちのイヤホンや、お店にあるヘッドホンを繋いでいただいて、試して頂きたいですね。
音の背景、音が鳴っていない時の静けさというのが、まず再現出来ているので。
その静けさの中にある細かい音が聴こえてくるようになります。
例えばオーケストラの中で大きな音が鳴っていても、バックグラウンドが静かなので、その中に埋もれている細かい楽器の音も全部聴こえるという、静けさ。
クリーンであることイコール、細かい音がちゃんと聴こえるっていうというのが、大事な要素のひとつです。
あとは、ヘッドホンのポテンシャルを引き出せる領域にまで、ようやくたどり着いたと思っています。
弊社の製品だと『MDR-Z1R』を推奨していますが、ぜひ他社のヘッドホンなども繋いで頂いて。
そのヘッドホンで聴いたことがなかったところまで引き出せることを体感して頂きたいです。
『NW-WM1Z』の段階でも、ジャンルに対する守備範囲というのは、随分広かったと思うんです。
ただ今回に関しては、それより更に広くなっているのではないでしょうか。
フラッグシップは、ジャンルを選んではいけないという方針があります。
そういう点で見ても今回の『DMP-Z1』は不得意なところがないと思います。
先程少し聴かせていただきましたが、確かに、何を聴いても素晴らしい音でした。
ハイレゾ音源はもちろん、CD音源でも。ジャンルも、曲も、何も選り好むことなく完璧に鳴らしてくれる。
CDには長い歴史があって、それだけ大量の音源があるので。
恐らく皆さんお持ちの音源でも、CD音源が一番多いんじゃないかなと思います。
そういうところで、ハイレゾももちろんなんですが、CD音源もしっかりと再生出来るようにしました。
若い頃に聴いていたCDをもう一回非圧縮で聴いていただくと、「えぇっ!?」という驚きがあるかと思います(笑)。
そうですね。
『NW-WM1Z』で「おお!」と思ったのに、これで聴くと更に「おおお!?」となるような(笑)。
まだ先があったか、というところを感じられると思います。
僕もCDが好きな人間なので、まだまだずっと、買い続けているんですけど。
何十年も前に作られたメディアとは思えないポテンシャルが、まだまだあるなということをずっと感じているので。
その魅力を更に引き出せるというのは……ましてや、それをソニーさんに作って頂けるというのは、また格別ですね。
『NW-WM1Z』を、そして据え置きの音質を超える
これを作っている間に改めて感じたのは、「『NW-WM1Z』って良く出来ているよね」ということです。
最初の一発目に作ったサンプルだと、『NW-WM1Z』に全然敵わなくて。
やべえぞやべえぞ、みたいな(笑)。
『NW-WM1Z』の音を超えるって、結構ハードルが高くて。
簡単には超えられない壁でしたね。
かつて自分たちが作り上げた傑作が、今度はハードルとなって立ちはだかったわけですね……。
ただ、結果的に完成したものは、明らかに「超えられている」ということが実感出来るレベルに仕上がりました。
やはりポータブルプレイヤーとは次元が違うところの、据え置きのヘッドホンアンプの音質を越えよう、というところを目標に作っていたので。
その辺はやっぱり、ワンパッケージにしたところの優位性を活かせたのかと思います。
このサイズで、何にも繋がらずに単体で動いているって、結構気持ち悪い感じはあるんですけど(笑)。それはそれで面白いかなあと。
いや、まあ、面白いんですけど。
それ以上に、「凄いな……」って、ちょっと引いて見ちゃうレベルですよ(一同笑)。
最近、止めてくれる人が少なくなっちゃって。
最近のソニーさん、あんまりお金に糸目をつけていないというか。
「音質のためにコストを度外視しました」って、毎年聞いている気がします(笑)。
やりたいことが全部詰まったレーシングマシン
結局この商品って、何が出来るかって言うと、ヘッドホンで音楽を聴くだけのものなんですよ。
それだけなのに、これだけの大きさがあって。一点突破しているんです。考え方としては非常にシンプル。
移動中にも聴けなかったり、いろんな制約はあるんですけど。その方がやっぱり音も良くなると思うんですね。色々なものをゴテゴテとつけるのではなくて。
このヘッドホンプラグにいかに良い音を出して、お客さんに楽しんでいただくか。
それ以外は何も出来ないという、ピュアなヘッドホンオーディオを楽しんで頂くための専用マシンなんです。
普通に考えたらこの値段だと、ラインアウトとかが付いているのが当たり前だと思うんですけど。
そうですよね。
光出力とか付けちゃうのかな、と思いました。
「何が付いているのかな?」と背面を覗いてみたら、電源とUSBだけ(笑)。
内部にスイッチをつけると、どうしてもヘッドホンアウトに、多少なりとも影響が出てしまいますから。
外部インターフェースを付けたいという話もあったんですけど、それを敢えて無くしました。
弊社のヘッドホンアンプの『TA-ZH1ES※』には、コンポーネント機器との接続端子がしっかり搭載されておりますので。
コンポーネント接続が欲しい方はそちらを使って頂くということで、こちらはかなり振り切れたモデルになっております。
(※TA-ZH1ES:2016年発売。当時ソニー初となった、据え置き型のハイエンドヘッドホンアンプ)
確かにそういうコンポーネントって、据え置きの発想ですよね。
基本的に繋ぎっぱなしにしちゃうわけですから、持ち運びには適さないと。
持ち運ぶたびにケーブルをすべて外して、というのもナンセンスですし。
ヘッドホンオーディオに特化してしまった方が、バックギアが無いレーシングマシンみたいに突き進めるのではないか、と(笑)。
「アクセルを踏めばいいじゃん」っていう発想ですね(笑)。
『NW-WM1Z』を発売した時に、想定していなかったヘッドホンの接続をされて「鳴らない」って言われると、やっぱりちょっと悔しかったんです。
「それなら、ちゃんと鳴らすために今できることってなんだろう」っていうところで生まれたのがこの製品でした。
なんとか実現したいという思いはずっとあったので、今まで検討していた技術などを、全てまとめて出させて頂いて。
じゃあ、この機種は『今までやりたかったこと』が沢山詰まっているんですね。
そうなんです。これまで考えていた色んなアイデアを、全部ここぞとばかりにつぎ込んだんです(笑)。
部品を挙げればキリがないくらい、ずーっと考えていた物、ひとつひとつを。
この開発が始まってから考えたものじゃなくて、『NW-ZX1』の時、ハイレゾウォークマンの音質を考え始めてからというのを、全部積み込んでしまった。
今までウィッシュリストに入れておいた部品たちが、全部入ったと(笑)。
ガサガサッ、とね(笑)。
逆に、今までそういった検討を重ねてきた分、通常の開発期間でここまで作り込めたのだと思います。
けどまあ、この商品が形になったことで、今までの積み重ねが間違っていなかったということが再確認出来ましたし。
これを作ったことによって、またフィードバック出来ることも増えてくるので。
今後も商品のカテゴリを問わず、新しいものに続いていくといいかな、と思います。
据え置きのホームオーディオと比べても、『ヘッドホン』って、まだまだ進化が続いている分野だと思います。
そんな中で、ひとつの音楽プレイヤーとして、ヘッドホンの進化を少しでもサポート出来るレベルの商品になったかと思います。
ぜひお持ちのヘッドホンを『DMP-Z1』に接続して頂いて、「このヘッドホンって、ここまで出るんだ」というのを聴いて頂きたいですね。
開発者の皆さん、ありがとうございました。
『DMP-Z1』は、12月8日から発売中。
e☆イヤホン各店ならびに、web本店にて受注を承っております。
また、12/15〜12/16で開催予定のポタフェス2018WINTERでも展示が行われます!
ぜひ秋葉原で、未曾有のサウンドをご体感下さい!
お相手はだいせんせいことクドウでした。それではまた次回。
【制作協力】
ソニーマーケティング株式会社
※記事中の商品価格・情報は掲載当時の物です。