あのVictorブランドが復活。初のハイエンドイヤホンについてお話を伺いました!
だいせんせいです。
皆さんはJVCの『WOOD』イヤホンをご存知ですか?
古くはVictor時代の2008年に『HP-FX500』が発売されてから、今年で10周年となるシリーズです。
現行機種である『HA-FW01/02/03』の各モデルも非常に高い人気を誇り、業界としても珍しいウッドハウジングのイヤホンの中で高い評価を得続けているWOODシリーズ。
そんなシリーズにこの度新しく加わる製品、『HA-FW10000』が本日発表となりました!
『Victor』ブランドの復活にして、なんと同社初となる約19万円の超ハイエンドモデル!
その衝撃とともに、大きな関心が集まっていることと思います。
そんな新作ハイエンドモデル『HA-FW10000』について、開発者の北岩公彦さんにお話を伺うことが出来ました!
今回の記事では、そんなインタビューの様子をお届け致します。
本日はJVC初のフラッグシップ・モデルということで、その並々ならぬコダワリをお伺いできると楽しみにして参りました!
早速、ご紹介させて頂きたいと思います。
よろしくお願い致します。
よろしくお願いします!
こだわり抜かれたウッドハウジング
まず、開発当初の段階の物からお見せします。
なんだか、見覚えのある形ですね。
本機の開発にあたり、HA-FW01をベースに事前検証をスタートしました。
こちらはチタン製のインナーハウジング、ステンレス製のノズル、そしてウッドハウジングの音質の検討用に作ったパーツを組み合わせたものです。
ウッドハウジングについては、色々な素材や加工を検討しています。
ものすごい量……!
どの木材をどう加工したか、というのが一覧になっているわけですね。
検討用に選んだ素材は、樺と桜、楓の3種類になります。
この3つは広葉樹系で、針葉樹よりも目が詰まっていて、澄んだ響きが出る素材なんです。スピーカーのキャビネットとかにも良く使われる素材ですね。
こちらは、最終的には楓を採用することになりました。
仕上げも色々試していましたが……、最終的には漆塗りを採用し、『拭き漆』という、漆を塗った後拭き取って仕上げていくやり方を検討していました。
漆の塗装を薄くする、ということでしょうか?
そうですね。光沢を出さず、うっすら漆を乗せてあげるような。
最終的な仕上がりがこちらの、漆を4回塗ったものになります。
おおお……。かなり印象が変わりますね。
高級感が出ますし、何よりデザインの意図にも沿っていました。
採用した素材と仕上げ方に関しては、これでほぼ決定です。
この『4回』という回数も、やはり音質的に加味した結果なのでしょうか。
回数で変わると思います。ただ、そんなに塗膜が厚いわけでもないんですよね。
途中の3回までは拭き漆なので、それほど厚さを残さないような塗り方になっています。
最終的な4回目の塗りがこういう光沢の塗りなので。
それでも、拭き漆の回数などを変えると、音としても……。
全然変わってきます。
まあ、4回というのは音質面だけでなく、どちらかというと仕上がりの面での効果が大きいと思いますね。
そんな試作品をベースにして作られたのが、こちらの最終形のものです。
つるんとしていて、お椀のように見えますね。
HA-FW01をベースにしたものとは、形状からして全く違います。
具体的にどこが違うかというと、(FW01のウッドハウジングは)MMCX端子用の穴が空いてますよね。
この穴は当然インナーハウジングにも空いています。
するとどうしても、ボディの部分に音響的ではない要素が入り込んでしまうんですね。
そこで今回は、完全に筐体と端子が分離した形になっているんです。
いわば、ハウジング部分が完全に一個のスピーカーとして完結しているような。
そういう発想です。
穴が空いていることを考慮したチューニングではなく、そもそも穴を無くしてしまう……。逆転の発想ですね。
ところで、内側にチタン製のインナーハウジングが入っていますよね。
素人考えですが、外側のハウジングの素材より、このチタンの影響が大きくなってしまうのでは?
主としてはやはり、内部の構造体のほうが音に対する影響は大きいと思います。
ただ、チタンを使ってはいますが、チタンはそれほど音の個性を主張しない、ピュアな方向性の素材です。
ですから、チタンのピュアな音の背景にウッドの音が視えるような感じで表現出来ているかと思います。
奥が深いですね……。
金属製のハウジングパーツとドライバーユニット
構造の話に戻りますと、チタン製のインナーハウジングの外側にウッドのハウジングがありまして、前面にステンレス製のノズルが装着されるようになっています。
このノズルの裏側にあるのが、アコースティックピュリファイアーですね。
この形状はHA-FX850のスパイラルドットから着想を受けて、HA-FW01から採用しているものです。
スパイラルドット同様、非常に小さな凹凸の配置で、音響的な調整をしているものですよね。
それに関してのちょっとした裏話になりますが、このドット、パッと見は全部同じサイズに見えますよね?
……え。
見えます。違うんですか?
3つだけ大きさが違うドットがあるんですよ。
コンマ1mmくらい大きいのかな。
あ! よく見たら微妙に大きい!
これもやはり、音響的な意味があるのでしょうか。
実はこれ、インナーハウジングの前面を3点のドットに当てて、支えているんです。
じゃあ、この3点をごくごく小さな柱のような形にして、ドライバー前方の空間の大きさを調整していると。
そうですね。
ノズルとドライバーユニットとの間の距離は、特性や音質にかなり影響を与えるので。
そこは極力同じ寸法を保てるように、このドットの大きさで、距離を調整しているんです。
面白いですねえ……!
ダイナミック型ならではの発想ですね。
そんなダイナミック型ドライバーの変遷がこちらです。
HA-FW01のドライバー(一番手前)、開発初期に検討を始めた時の試作品(真ん中)。
そして、カーボンコーティングをプラスした完成品(一番奥)です。
変遷としてHA-FW01のドライバーユニットが置かれているということは、これが基になっているのでしょうか?
そうなりますね。
完全新規設計というわけではなく、FW01のドライバーがベースになっています。
外見的にも大きく変わっていますね。
見た目が全然違うでしょう?
完成品の物は(振動板の真ん中の)ウッドドームの部分が黒く塗られているように見えますけど、実はこれ、試作品と同じものなんです。
ウッドドーム自体が非常に薄いので、その裏にあるカーボンのコーティングフィルムが透けて見えているんですよ。
ええ……! じゃあ、木の素材が透けて、黒く見えているってことですか?
ウッドドームの部分は全く一緒!? もう片方なんか赤いですよ!
そうですね。木に着色とかは一切していませんので。
もうひとつの方が赤く見えるのは、ウッドディフューザーという赤いパーツを後ろに入れているためです。
すごい……。
木材って、ここまで出来るんですね……。
他にも、ユニット内の細かい調整はあります。
ボイスコイルも音質の良いワイヤーのものに変えていますね。
あとは、筐体内の吸音材についてもご紹介します。
まずこちらがシルク。これがまた凄く軽いので、エアコンの風で飛んでいっちゃうんですよ。
これがこのまま、イヤホンに入っているんですか?
丸く成型されているとかではなく。
繊維を寸法でカットして、そのまま入れています。
そして、もうひとつの吸音材が和紙です。
四国で造られている『阿波和紙』という種類の物を採用しています。
こっちは普通に『紙』って感じですね。
紙っていうのは元々、木の素材を細かく砕いたものを漉いたものですから。言ってしまえば、木の繊維なんですね。
シルクよりも繊維が太く、密度も違いますので。それぞれで吸収する周波数が変わってくるんです。
この2つを組み合わせることでチューニングしていると。
上手くブレンドすることで、特定の周波数だけを吸ってしまわないようにして、全体の音を組み立てるようにしています。
……『上手くブレンドすることで』ってサラッと仰ってますけど、ものすごく大変ですよね……?(笑)
かなり大変ですね(笑)。
ミリ単位で調整して、どこにどの素材がどれくらいの量で置いてあるか。
他のパーツを変えると、こちらもまた調整することになりますから。
付属ケーブルのコダワリ
ケーブルについてもお話を伺ってもよろしいですか?
それでは、まずはプラグから。
この端子を見て頂けると、色が違うのがわかると思います。
今回のプラグ(画像下)の方が、わずかに金色が強くなっていますね。
従来品に比べて、金メッキを厚くしているんです。
これは純粋に厚みだけの問題なんですか?
厚みだけですね。使用しているメッキ自体は同一です。
その分、音響的にも、耐久性としても有利ということですね。
芯線は径の細かいリッツ線を多数組み合わせたものを使用して、エネルギー感を出した線になっています。
分岐の部分で左右の線が1本にまとまっているんですが、ここははんだ付けなどはなく、そのまま来ているんですよ。
左右のケーブルをまるごと覆っている、ということなのでしょうか。
余計な接点などがなく、2本の1.2mケーブルを真ん中からまとめているだけだと。
そういうことです。
ですから、端から端までハンダがない状態で繋がっているわけですね。
線材の中にもシルクが内包されているというお話ですが、こちらにはどういった意味があるのでしょうか?
シルクを線材の周りに巻いたものは、よくあるんですけど。
今回のように芯線の中に入れるというのはあまり聞いたことがないので、最初は効果の度合いがわからなかったんですね。
いざ試してみると、意外と効果があったな、と(笑)。
実際にはどのような違いがありましたか?
静けさの表現や、余韻の自然さなどが変わってくるかと思います。
では、取り回しとかそういうところだけでなく、音色的にも全く変わってくるということなんですね!
不思議だ……。
いざ、試聴の時!
それでは、実際に『HA-FW10000』を聴いてみて下さい。
ありがとうございます……!
それでは、お言葉に甘えて。
……なんというか、ちょっと意外でした。
もっとウッドらしさを全面に出してくるのかな、と思っていたんですけど。
なんならちょっとシャープなくらいというか。凄く輪郭がはっきりしていて。
ただ、その中に柔らかさや温かさが見えると思います。
まさしく、そうですね!
柔らかな広がりと精微な描写が同居していて。音楽的な満足感がものすごいです。
今のシリーズで例えるなら、『FW01』と『FD01』のいいとこ取りのような音というか。
それらの開発のノウハウが活きている部分というのはあるのでしょうか。
そうですね。
もちろん根本としてはWOODシリーズの流れを汲んでいる製品なんですけど、例えば『FD01』の開発によって得られた色々な技術的な効果を美和(※)に聴かせてもらったりしていたので。
そういった部分のフィードバックは入っているかもしれません。
(※美和康弘氏。『HA-FD01』開発者)
終わりに
ひとつだけ、このお話を受けた時からずっと気になっていたことがありまして。
なんでしょう?
この『HA-FW10000』という型番、ちょっとスゴいですよね。
もともと『FX700』があって、『850』『1100』という、数字が大きくなっていく流れとしてはわかるんですけど。
「10000まで届いちゃうか」というのが、我々の正直な印象というか(一同笑)。
5ケタって、なかなか聞いたことがないんですよ。
ましてや、FWの段階で『01』~『03』っていう、数字の小さい型番になっていたと思いますし。
この型番の意味合いというのは、どういったものなのでしょうか?
このモデルは、『WOOD』シリーズの10周年記念的な位置づけでもありまして。
それに伴って、型番も『10』にかけた数字にしたかったんですね。
しかし『FW10』とすると、今まで『01』~『03』と作っていたので、その下位モデルのように聞こえてしまうかもしれない。
かといって『FW100』でも、過去に『700』や『850』があったわけですから、やはり数字として下のように感じる。『FW1000』にしても、『1100』があります。
そこで『FW10000』ですか……! 思い切りましたね!(笑)
確かに、間違いなく一番スゴいモデルであることが伝わるインパクトがある、良い型番だと思います。
それでは最後に、この記事をご覧の皆様にメッセージをお願いします!
今回のモデルは価格としても非常に高価で引き合いが強いのですが、何より『ダイナミック型1発』というのがポイントだと思っています。
この価格帯だと、BAの多数個使いやハイブリッド型といったものが多いですよね。
しかし僕たちは、『ダイナミック型1発でもここまで出来る』ということを示したかった。
それを意識して聴いて頂けると幸いです。
職人気質ですね……!
本日はありがとうございました!
北岩さん、ありがとうございました。
JVC――――Victorブランドが放つ、渾身のダイナミック型イヤホン。
その技術の粋の一端が垣間見えたことと思います。
こちらの製品は11/8(木)発売予定。
e☆イヤホン各店にてご予約も承っておりますので、ぜひチェックしてみて下さいね!
お相手はだいせんせいことクドウでした。それではまた次回。
【制作協力】
株式会社JVCケンウッド
※記事中の商品価格・情報は掲載当時の物です。