シリーズ最新作、あらゆる点が進化したNW-ZX500シリーズのお話を伺いました。
皆さんこんにちは。
イヤホン・ヘッドホン専門店『e☆イヤホン』のだいせんせいです。
皆さんは、先日発売された『NW-ZX500シリーズ』をご存知でしょうか。
大人気DAP『NW-ZX300』の意匠を継いだ最新モデルということもあり、大きな話題を集めた本製品。
今回の記事では、そんなウォークマン最新作に携わった開発者のお二人にお話を伺いました!
本日はよろしくお願いいたします。
まずはお二人から自己紹介をいただいてもよろしいでしょうか?
NW-ZX500のプロジェクトリーダーを担当しました、関根です。
同じくNW-ZX500の音質設計を担当いたしました。松崎と申します。
ありがとうございます。
さて、今回はそんなお二人が開発に携わった『NW-ZX500』のお話を伺えるということで。
前身となる『NW-ZX300』が発売されたのが一昨年、ですよね?
一昨年の2017年ですね。
それから2年が経って、『300』から『500』に生まれ変わることとなった、その開発経緯はどのようなものだったのでしょうか。
一番の大きなきっかけとしては、現在の音楽視聴の主なスタイルがストリーミングサービスになってきていることと、それにNW-ZX300が対応していないということでした。
以前は音楽を持ち歩く際に「CDを購入して、PCにインポートして、音楽プレイヤーに移して……」という形だったのが、今はスマートフォンなどの再生機器単体で済むようになりました。
そこで今回は、ストリーミングサービス等に対応させつつ、評価されていたNW-ZX300の音質面や使い勝手を受け継いだモデルを作る、というところでこの開発がスタートしています。
パッと見の印象はNW-ZX300ベースでありつつも、かなり多くの点が変化していますよね。
まずはそんなNW-ZX500のハードウェア的な変更点をお伺いしていきたいと思います。
ハードウェアの変更点
システム部に関しては、今回からAndroidを採用したということもあり、今までのものとは全く違うものをゼロから新規開発しています。
音楽専用のアプリケーションで動かしていたものが、Google Playストアに並ぶアプリなどを動かせるようにしなければいけないので。全く新しいものになっています。
あとは、Androidの採用にあわせて、画面が3.1インチから3.6インチになっています。
ポイントだったのは、NW-ZX300の筐体のサイズをキープしつつ、いかに画面を大きくするかというところ。実は今回、少しだけ表面の幅が大きくなっているんです。全体の寸法としてはほとんど変わってないんですけど、液晶の載る面積を限界まで広げて、ギリギリの3.6インチの液晶を載せることができました。
Androidが搭載されることで、ミュージックアプリだけでなく、他のサービスのアプリなどを使用される方も増えると思います。それらを含めてトータルの操作性を向上させるために、今回は液晶も大きくしています。
Android端末をイチから作ると考えたら、設計思想も相応に変わってくるということですね……。
また、液晶画面を光沢のあるものに変更しました。
あっ……! そういえば、NW-ZX300はマットな画面でしたね。
今までは音楽プレイヤーの画面しか出なかったけど、今回は違う画面……たとえば、文字を見る、ブラウジングする、といった画面が出てくると思います。すると、どうしてもマットな画面だと見づらくなる場面があるんです。
それも踏まえ、ベースは視認性の良さというところを追求して、光沢のある画面に変更しています。
NW-ZX300の発売当時は、うちの社内でも「光沢があるほうがよかった!」「いや、マットのほうが良い」みたいな争いもあったんですけど(笑)。
たしかにその理由は納得ですね。動画とかも観られるわけですから。
「PVを観ながら音楽を聴く」という場面でも、やはりこっちのほうが綺麗に映ると思います。
そして「全体の寸法はほぼ変わらない」ということでしたが、本体形状としては一部変わっていますよね。
一番特徴的なのは、筐体下部に丸みを持たせたことではないでしょうか。
今までは、切り落としたような真っ平らなデザインが多かったのですが、今回は「手に取ったときの角の当たり感」の改善を目指しました。
もちろん主としてはウォークマン製品なんですけど、同時にAndroid製品としても作っているので。手に取って操作するシーンが増えることも考慮し、従来モデルと比べても持ちやすさを追求しています。
たしかに角が無いおかげか、すんなりと手のひらに馴染みます。これは持ちやすいですね。
あと、実はボタンの形状と配置もちょっと変えています。NW-ZX300より上側に近づけて、それぞれのボタンの押しやすさを改善しています。
今回はAndroidを搭載しているので、再生や曲送りといったボタンも、Spotifyなどのアプリで使えるようになっています。それらも踏まえて、より押しやすいデザインになりました。
確かに今、Android端末でこの手のボタン(再生、曲送り、戻し)が付いているものってほとんど無いですもんね。マイク付きリモコンなどで操作されていた方もいるかもしれませんが、端末にそのまま搭載されているというのは便利になりそうです。
あとはやはり、大きな変化として見過ごせないのは充電端子でしょうか。
従来の機種では『WM-PORT』が使われてきました。なぜこの規格がずっと使われてきたかというと、音楽転送の機能に加えて、オーディオ信号のイン・アウトがついていたんです。対応のスピーカーやコンポと接続して再生できたり、一部の機種(NW-A20シリーズなど)では『ダイレクト録音』という機能でCDウォークマンから録音ができたり、そういった機能に使われていました。
しかし色々と市場の声を聞いてみると、専用のケーブルが無いと充電ができないというところが、やはり欠点として挙げられていたんです。また、スピーカーやコンポ等との接続に関しては、最近はBluetoothで簡単にできるようにもなりましたよね。
確かにそうですね。かつては専用規格で実現していた機能が、今は簡単にできる時代になったと。
そこで今回は利便性を追求しようということで、USB Type-C端子を選択しました。皆さんがお手持ちのスマートフォンなどもType-C搭載のものが増えてきていると思うので、充電ケーブルも共通して使えるようになります。
ついに……! 13年越しの変革ですね(笑)。
それと、SDカードスロットも少し仕様が変わっています。今回はトレイタイプになりました。
これ、むちゃくちゃ革命的ですよね……!
microSDスロットにフタが付いているタイプは使いやすいんですけど、そのぶん少しゴツくなってしまったり、デザイン的にも制約ができてしまいます。
一方で、最近は大容量のmicroSDカードが安くなっていたりして、頻繁に入れ替えるというシーンも減ってきているんですね。
そうかもしれませんね! 僕も挿しっぱなしにすることが多いかも。
そういうところも踏まえて、今回はトレイタイプにすることで、溶け込むようなデザインを採用しました。
ただ、スマートフォンとかだと、トレイを引き出すのにSIMピンを使ったりしますよね。それだと流石に使い勝手が悪いので、そのままツメで引き出せるタイプにしました。使いやすく、かつスッキリまとまっていると思います。
このトレイ、本当に革新的ですね……!
他社でもトレイ式を採用しているDAPがあるのですが、やはりSIMピンを使って取り出す必要があるので、ちょっぴり面倒で。
だからウォークマンがトレイを採用したって聴いたときは「まじかよ……」って少しガッカリしてしまったのですが、ツメで引き出せると知ったときの感動たるや、もう!(笑)「すべてがこれになってほしい」と言ってもいいくらい、素晴らしい発明だと思います。
あとは、音質周りのハードウェア的な変化はどのようになっていますか?
Androidの搭載もあって全体的に部品は増えているんですが、音質の肝となるブロックの構成、こちらは基本的にはNW-ZX300の考え方をそのまま踏襲しています。
上がヘッドホン出力のオーディオブロック、真ん中がデジタルブロック、下が無線系(Bluetooth、Wi-Fi、GPS)のアンテナブロック、という配置になっています。
音質周りのお話としては、DMP-Z1で採用した高分子コンデンサを搭載して、バランス出力の音質向上を図っています。いわば、95万円分の技術とノウハウがここに載っているような感じです!(笑)
DMP-Z1の技術がいつか生かされる日が来るだろうと思っていましたが、さっそく来ましたね(笑)。
この辺は浩朗さん(※)たちと一緒に音作りをしたところで、本当にこれだけでも中高域の伸びなどがより自然になるというところですね。
今回は浩朗さんは直接開発に関わっているわけではないのですが、『監修』のような感じで、色々アドバイスを頂いたりしています。
(※浩朗さん:ソニーの音質設計技術者、佐藤浩朗氏。歴代のウォークマンや、2018年の『DMP-Z1』などの音質設計リーダーを担当)
そして、シングルエンド出力も強化しています。以前はAシリーズと同じ部品を使っていたというのが、私、くやしくて(笑)。
今回はNW-ZX500シリーズ用に新たなPOSCAP(高分子コンデンサ)を採用しました。従来モデルと比べても2.5倍の容量になっていて、それによって電気が通る道が太くなり、中高域から低域までしっかりと出るようになりました。
この変化は、試聴していただいたお客様など、多くの方に実感していただいています。
確かに「ZX300といえばバランス出力」というような風潮がありましたけど、その一方で、僕とかもシングルエンド派だったりするので、そのへんの性能の強化はすごく嬉しいですね。
大きな進化点は、こちらの「銅切削ブロック」という名前で呼んでいるパーツです。
やはり一般的なイメージとして「Android化によって音が悪くなるのではないか」という懸念があると思いますが、それを全部克服するために採用したものです。
NW-ZX300でもグラウンドの安定のために『無酸素銅プレート』をデジタルブロック部に配置していたんですけども、今回はプレートではなく削り出しの塊にすることで、銅の質量を3倍にしているんです。
かつ、基板にピタリと付けるために、平面であることが重要になってきます。プレス加工だとわずかな凹凸によって点接触になってしまいますが、削り出し加工で基板にピッタリとパッキングすることで、ノイズが外に漏れないようになっています。
これによって、音質とワイヤレスの品質を両立することができました。
たしかに、「Wi-Fiが使えてYouTubeも観られるけど、音質が悪くなっちゃった」だと、本末転倒ですもんね……。
『ストリーミングウォークマン』という名前を付ける以上はしっかりと対策をして、「Androidになっても音が良くなっている」と言ってもらえる完成度に仕上げました。
やはり、デジタルノイズが増えているのは事実なんです。それをいかにして防ぐかが課題でした。
「NW-ZX300のサイズ感をキープする」という前提がありましたので、グラウンドの強化も含めて色々と検討した結果、今回は「銅から削り出す」というリッチな方法を採用しました。
素材の話で言うと、今回はNW-A50シリーズやDMP-Z1に採用した、金入りのハンダを採用しております。
いよいよこっちにも! やはりこれひとつ取っても、違いが大きいのでしょうか。
そうですね。NW-ZX300とハンダを変えただけの比較をしても、グッと変化が現れます。
なるほど。
そして、Androidの採用でもうひとつ気になるのはバッテリーですね。やはり「ウォークマンといえばバッテリーの持ち!」というイメージもあると思いますが、その辺りは大丈夫なのでしょうか?
まさにそれが、開発にあたっての最初の懸念でした。
対策として行ったのは、ミュージックアプリの最適化です。もともとNW-ZX300シリーズやNW-A50シリーズなどで搭載していたシステムを、そのままAndroid用に作り直しているんです。
そうか、過去の機種はAndroidじゃないから、イチからAndroid用に作り直さなきゃ動かないですもんね……。
そうなんです。見た目は変わらないですけどね(笑)。
そのアプリ上で、バッテリーライフが伸びるような最適化をしています。我々は自社でアプリもハードも開発しているので、それが可能なんです。
なるほど……!
残念ながら他のアプリを使ったときの消費電力は(ミュージックアプリに比べると)増えてしまうのですが、ことミュージックアプリに関して言えば、圧倒的に他のアプリよりも長いバッテリーライフを実現しています。
専用機であるNW-ZX300と比べると幾分か落ちてしまう部分はあるものの、その中でもなるべく長く使ってもらえる工夫をしています。
では、純粋にウォークマンとして使うことを考えたら、ほぼ遜色ないといったところでしょうか。それは嬉しいポイントですね。
復活のAndroidウォークマン
続いて、ちょいちょいお話には挙がっていますが、ソフトウェア……Androidの搭載についてお聞かせください。
コレも大きな変化というか、大変な決断だったのではないでしょうか。
ご存知の通り、Androidを搭載したウォークマン自体は、我々も過去に発売しています。
『NW-ZX2』が最後で、それ以降は『音楽特化』というコンセプトから、WM1シリーズやZXシリーズなど、音楽専用機として開発してきました。
ただ、世の中でストリーミング配信の音楽サービスがどんどん普及しているという状況もあって、やはりそれに対応していかないことには、お客さんの使い勝手も悪くなります。
それにあたって、「従来のシステムにそのまま組み込んで対応させようか」だとか、色々と手法は検討したんです。しかし、サービスが多様化していくことを考えると、僕らがそのたびに対応させていくというのは現実的ではありません。
それを考えると、Androidベースで作ったほうが、お客様にも新しいサービスをすぐにお楽しみいただけます。
私自身「CDをリッピングして聴く」というスタイルがほとんどなんですが、今回のモデルを通じてSpotifyデビューが出来たんです(笑)。
おお、ついに!(笑)
「スマートフォンで聴いてみたあとで、ウォークマンでも聴いてみる」ということを繰り返して、やはり同じサービスであっても、スマートフォンとは全く音質が違うということに気づいたり。
何より、いざ使ってみるとこれがまた便利なんですよね(笑)。スマートフォンで選んだプレイリストが、そのままウォークマン側に反映されたりだとか。
なるほど。ネットワークに繋がっていれば、自動で同期されますもんね。
あとは、ウォークマンであればイコライザーやノーマライズの設定をすることもできます。そういう細かい設定を使い込んでいただくのも、お楽しみのひとつかなと思いますね。
そうか! ミュージックアプリにとどまらず、ウォークマンの機能込みでAndroidの音声が楽しめるんですね。そう考えると、すごく面白い端末ですね。
それにあたっては、今回「音質設定アプリ」というものを新たにご用意しました。
イコライザーやDSEE HX、バイナルプロセッサーなどの設定をアプリ化しているんです。
これで設定することで、SpotifyやYouTubeなどのアプリを使用する場合でも、設定した内容が反映されるようになります。たとえば、YouTubeの動画の音声をDSEE HXでハイレゾ相当にアップスケーリングしたり。
Spotifyなどのストリーミングの音源にDSEE HXをかけると、ものすごく音が良くなるんですよ!
どんなアプリでも使えるって考えると、面白いですねえ……!
NW-ZX300には「Bluetoothレシーバー機能」というものがあって、スマートフォンからBluetoothで音声を飛ばしてNW-ZX300で再生、という聴き方ができるんですけども、我々としてはやはりなるべくロスの無い状態で聴いていただきたいという想いがあります。
アプリの音声をNW-ZX500で再生すると、Bluetoothのコーデックで変換せずにそのまま再生することになるので、よりリアルなサウンドをお楽しみいただけます。
ミュージックアプリの話に戻ってしまうんですが、「この話だけはしておかなければ」というのが、カセットテープ表示機能なんですけど(笑)。
なんでNW-ZX500でも使えるんだ、っていう(笑)。
それもありますし、そもそもこの機能がなぜ搭載されたのか、というところから気になります。NW-ZX500はもちろん、NW-A100も含めて。
実はこのカセットテープ表示機能は、NW-A100TPS(ウォークマン40周年記念モデル)の企画から始まったんです。
なるほど、周年モデルありき。
40周年記念モデルの話
もともと「40周年記念モデルをどうしようか」という検討の中で最初に考えていたひとつが、期待していた方もいらっしゃったかもしれませんが、『ものすごいハイエンド機』でした。ただ、ハイエンドにも魅力はあるんですが、それだとどうしても購入できるユーザーが限られてしまいます。
確かに、15周年などの時代とは「高級モデル」のグレードが全然違いますもんね……。
もともとウォークマンは「世の中の人に新しい体験を届ける」という想いから始まっているので、一般の方にもお楽しみいただけるものを提供出来ないかというところで、今回はNW-A100シリーズをベースにして、1号機である『TPS-L2』を再現したモデルを作りました。
そして、せっかくケースの外観が1号機そっくりなので、せっかくならカセットの疑似体験みたいなものを最新のプレイヤーで再現したら面白いんじゃないかと。
そして「せっかくなら」ということで、NW-ZX500シリーズにもカセットテープ表示機能を搭載してみました。
これがまた、意外にも喜んでいただけていて。……こっちには、限定ケースは無いんですけど(笑)。
ちなみにSNSなどで届いていたご意見だと、「操作するたびに『ガチャッ』っていう音を入れてほしかった」というお声もありました(笑)。
実はそれも検討していました(笑)。
ただ、今回はスクリーンセーバー的な要素もあって。どちらかというとビジュアル面で楽しんでいただきたいという意図で、このような仕様にしています。
変則的ながらビジュアライザー的な立ち位置なんですね。ウォークマンでこういう機能が搭載されるのって、意外と珍しいことではないでしょうか。
ビジュアライザー機能は、実は過去のAndroidウォークマンである「NW-F880シリーズ」などに搭載されていました。
この頃のAndroidウォークマンは、かなりスマートフォンに近い印象ですよね。
確かに、だいぶ印象が違いますね……!
しかし、やはり比べて手に取ってみると、NW-ZX300やNW-ZX500のサイズ感のほうがしっくりくる感じがします。
NW-ZX300シリーズから、「このサイズが良い」という評価をたくさん頂いていますね。手の収まり具合だとか、各ボタンへのアクセスの良さだとか、過去の機種と比べてもかなりブラッシュアップされていると思います。
肝心の音質は?
そんなわけで、NW-ZX500について、ハードウェア・ソフトウェアともに大きな進化があったことをご紹介いただきました。
ただ、ユーザーの皆様が気になっているのは、そういった進化を踏まえて「どんな音になったのか?」というところだと思います。具体的な音の変化としては、どのような形になりましたか?
去年『DMP-Z1』を発売したことで、我々は「飛び抜けて良い音質」というものを開発することができました。それと同時に、ウォークマンにおいても様々な課題が見えてきました。学んだこと、得たことを本モデルに生かすとともに、NW-ZX300以上の音質にしなければいけない。
たとえば、NW-ZX300とDMP-Z1と比べて聴いたとき、バランス出力に関しては低音の再生能力の弱さが課題に挙がりました。他にもシングルエンドの方は、まだ少し濁ったヴェールのようなものが残っている印象もありました。
今回の音質設計にあたっては、そういった課題に重点をおいたチューニングを行っています。
なるほど。文字通りのブラッシュアップというか、NW-ZX300をベースとして磨き上げたような音質設計、という考え方ですね。
あとは、ウォークマン全体で『S-Master HX』という共通のデジタルアンプを使っているのに対して、どこで音質の違いが現れるのかというと、やはり電源とノイズ設計なんですね。
先ほど申し上げた通り、今回はAndroidを搭載するということで不安な点もありました。
ただ、多くの製品のノイズ設計を重ねていくにつれて、ノウハウとしてもかなりこなれてきていて。Androidの搭載によって増えたノイズも、完全に封じ込めることができたんです。
ノイズに関しては、仕様の変更によって懸念されているユーザーも多かったことと思います。
でも、お話を聞く限りだと、なんならNW-ZX300以上のノイズカットが実現されているのでしょうか。
そうですね。前モデル以上に注意深く、「この部品とこの部品は何mm離さなければいけない」というような細かい条件もひとつひとつメカ担当とやりとりしました。結果として上手くいき、今の音質を作ることができたんです。
過去の機種でも言われていたのですが、「Androidだから良くない」ということを払拭したかったんです。
やはり、そういうイメージは大きいですよね。
実際のところ、Androidというのはそこまで関係なくて。「違うところで音質は担保できるんですよ」ということを、今回のモデルで証明できたと思います。
電気設計の腕の見せどころですね。
久しぶりとなるAndroidウォークマンだけに、その熱意が結実したというのは非常に熱いですね……!
サイズ感のこだわり、限界への挑戦
さて、そろそろインタビューも終盤です。
お話を聞く限り、本当にあらゆるところで苦労されているとは思うのですが、「特に気合を入れた、ぜひここを知ってほしい」というポイントがあれば、ぜひお聞かせください。
それでは、「金属筐体なのにWi-FiやBluetoothが普通に使える」というところを。
一般の方からしたら普通に使えなきゃ困る機能なんですけど、エンジニアからすると、なかなか厳しい。電波は送受信機間に金属の壁があると、全然通らないので。
確かに……確かにそうですね!?
これがNW-ZX300の筐体で、こちらはNW-ZX500の筐体です。NW-ZX300はワイヤレス機能がBluetoothのみでしたので、アンテナのブロックはこの大きさに収まっていました。
ただ、今度はWi-FiとGPSも増えまして、アンテナのブロック部分を丸々使わなければいけなくなったんです。それによって、充電用の端子を置けなくなっちゃったんですよ(笑)。完全にこの範囲を全部使っちゃっていて。
ということで、今回はUSB Type-C端子を筐体上部の方に移すことになりました。
面白い位置に付いてますよね、Type-C端子。
「ただ場所を追われてここになった」……というわけではなく、この位置になったのもちゃんと理由があります。
先ほど、レイアウトのこだわりとして「ブロックごとにセパレートしている」という話をしたんですが、USB Type-C端子の位置の隣に、バッテリーのハンダ付けや、電気二重層コンデンサなども集まっているんです。エネルギーの源、おへそのようなものと考えていただけるとわかりやすいでしょうか。
この位置に充電用の端子も集めてしまうことで、給電中も不要なノイズの発生を防ぐことができました。
なるほど……! エネルギーが集まっているところに、直接充電してしまうという発想ですね。
今までは下側に充電端子があったので、筐体内を通って給電していたんですけども。今回はむしろチャンスだと思ってこの位置にしちゃいました(笑)。
なんだか、ウォークマンの技術者らしいこだわり、という感じがしますね(笑)。
ストリーミングに対応したウォークマンなのに、アンテナ性能が弱かったら何のための対応なんだ、ということになってしまうので(笑)。アンテナブロックに関しては、この機種でもっとも力を入れた要素のひとつです。
そもそも、本体設計もアンテナからスタートしています。必要な各アンテナが、いかにZXシリーズのサイズ感の中で成り立つのか。今回のシャーシを見ていただければわかるんですけど、画面がこの位置まで来てるんです。
画面が大型化したから……! アンテナ上部のスペースまで使ってるんですね。
今回はわずかなスペースまで完全に使い切って、アンテナのすぐ真上にディスプレイが載っています。
シャーシの内側に刃を入れて、削っている面積も大きくなっています。
パッと見のサイズ感はほとんどそのままなのに、内側は今まで以上にギチギチに詰め込まれているんですね……。
お話を聞けば聞くほど「あちらが立てばこちらが立たぬ」みたいな感じになってしまいそうですが、それをまとめられたのは見事です。
その一方で、音質も重視しないといけませんから。サイズ的な辻褄をあわせるわけでなく、こういった『銅切削ブロック』なども作り込んでいます。
NW-ZX2の中身を見ていただくとわかるのですが、実はこの頃には、すでにプレートの原型があるんです。
この頃は確か、フレームみたいな考え方でしたよね。
『金メッキ銅プレート』ですね。アルミや銅の板を重ねた『ハイブリッドシャーシ』と呼んでいた構造の一部ですが、金属同士の接合点、接触ポイントのようなものがネックでした。
なんと言いますか、異なる金属がひとつの筐体の中にいると、「違う金属がいるぞ」という主張のような変化が生まれてしまうんです。
そういった反省から、素材の組み合わせによる音質への影響の気付きがあり、今回の削り出しにもつながっているポイントだと思います。
こうやってZXシリーズのエッセンスが受け継がれているのは、ファンとしてもうれしいですね。
NW-ZX300のレイアウトも踏襲しつつ、NW-ZX2のAndroidに対するアプローチ、「なぜ上手くいったのか」という原点にも立ち戻りながら開発を進めました。
終わりに
それでは最後に、ユーザーへメッセージをお願いします。
今は、ただ音楽を聴くだけならばスマートフォンで簡単に聴ける時代になりました。昔はウォークマンでしか出来なかったことが、今はスマートフォンだけで普通にできているわけです。するとやはり、「じゃあ、なんでウォークマンって必要なんですか?」という疑問を持たれる方も増えてきます。
手軽に音楽を楽しむならスマートフォンが便利です。しかしどうしてもスマートフォンだと、ストリーミングサービスだとか、Bluetoothオーディオだとか、結局圧縮された音楽を聴くことになってしまいます。
そんな時代の中でウォークマンを使うと、CD音源やハイレゾ音源などをそのまま楽しむことができますし、ストリーミングサービスなどの圧縮音源だとしても、さらに上の体験をお楽しみいただけます。
自分の好きな音楽を良い音で聴くことの感動こそ、我々が目指している『ウォークマンの体験』そのもの。そういったところを感じていただくためにも、ぜひお手に取っていただきたいですね。
私もそうでしたが、ぜひ皆さんもストリーミングデビューをして、その感動を味わいましょう!(笑)
そして、それらをバランス接続で体感していただきたいという想いもあります。
もちろん昔から使っているイヤホンも挿せるようになっているんですが、ぜひこれを期に、バランス接続が可能なイヤホンもお試しいただきたいと思っております。
ウォークマンって、イヤホンを変える楽しさがあるプレイヤーだと思うんです。
音楽の楽しみ方として、いろいろなイヤホンを使っていただく。そういう発見をしてもらえると嬉しいです。
ありがとうございました!
開発者の皆さん、ありがとうございました。
『NW-ZX500』は、11月2日から好評発売中。
e☆イヤホン各店には試聴機も展開しております。
シリーズのエッセンスが受け継がれた、新生Androidウォークマン。その魅力をぜひご体感くださいね!
お相手はだいせんせいことクドウでした。それではまた次回。
※記事中の商品価格・情報は掲載当時の物です。