フランスの大手音響メーカー・FOCALの新作モデルについてインタビューしました!

 


 

 

だいせんせいです。

 

皆さんは『FOCAL』というメーカーをご存知ですか?

 

 

フランスに本社を置く音響メーカーで、ホームオーディオ業務用機器カーオーディオなど幅広い分野で世界的に高い評価を得ているブランドです。

 

 

 

先日、そんなFOCAL業務用モデルであるProfessional部門新作ヘッドホンが発売されました。

 

 

過去のモデルも非常に高い評価を得ていたFOCALのProfessionalライン。

新作モデルも気になる気になる……ということで、今回e☆イヤホンではインタビューを敢行!

お応え頂いたのはこちらのお方。

 

 

FOCALグローバルセールスマネージャー

ザビエル・メッツガー氏です!

 

 

 


 

本日はよろしくお願いします。

それでは、まずは簡単に自己紹介を頂いてもよろしいでしょうか。

 

 

ザビエル・メッツガーと申します。

FOCALProfessional部門(業務用オーディオ)のグローバルセールスマネージャーを担当しています。

 

FOCALという会社は39年の歴史があり、

創業時はドライバーユニットのメーカーとして、ウーハーやドライバーのみを供給する立場の会社でした。

その後、ドライバーメーカーからキャビネットを含めトータルで制作するスピーカーメーカーへと成長を遂げています。

ドライバーこそがFOCALにとってのコアの技術であり、ドライバーの品質によって私達の会社が広がっていったのです。

 

 

イヤホン・ヘッドホンでも、FOCAL製品といえばやはりドライバーユニットの自社開発というイメージが根強いですね。

 

 

ありがとうございます。

 

そのような経緯で始まったオーディオ事業ですが、

一番最初に世に出たのがHi-Fi部門(家庭用オーディオ部門)で、その後カーオーディオの世界にも進出しました。

Professional部門は実は結構新しく、15年前にスタートした部門になります。

 

 

それでも、もう15年……。

 

 

これらの部門の個々の技術については、様々な視点からのアイデア・開発を活かしてシェアをしていきます。

例えば、Hi-Fi部門から生まれた技術がProfessional部門に使われていたり、プロの現場で生まれたアイデア・技術がHi-Fi部門で使われていたり。もちろん、カーオーディオで活かされているものもあります。

 

ただ、コアになる技術は共有するのですが、その技術の活用の仕方は違います

各部門で、ターゲットとなるお客様と、使われる用途が異なるためです。

 

 

 

FOCALのヘッドホン事業について

そして、数年前にヘッドホンマーケットに参入しました。これが現在、FOCALで一番新しい事業になります。

 

スピーカーとヘッドホンは当然、全く同じというわけではありません。ただ、色々な部分で似たところがあり、技術として応用できるところも多数あります。

ヘッドホンを開発していく上で、スピーカーを開発してきた技術・ノウハウというのが活かされているわけです。

 

ヘッドホン事業は『Professional』のように独立した部門があるわけではなく、Hi-Fi部門とProfessional部門のそれぞれに所属しています。

どちらの部門のヘッドホンもコアとなる技術は同じですが、やはり異なる用途に対してそれぞれ作られています。

 

皆さんは『Spirit Professional』というヘッドホンをご存知ですか?

 

 

Spirit Professional(2013)

 

 

もちろんです。

弊社で取扱いしているFOCAL製品の中でも、人気の高いモデルでした。

 

 

ありがとうございます。

Spirit Professionalは、音に関しては良い製品だと思っていましたし、クオリティの高い製品でありました。

 

ただ、例えば……ヘッドバンドの部分が折れてしまったりだとか。プロの現場で使うには、そういう耐久性に問題がありました。

高音質なヘッドホンとしては高い自信を持っていたものの、そういった部分の解消が必要だということは常々課題として上がっていました。

 

そのような経緯からSpirit Professionalを生産完了とし、新しいモデルを一から作ることにしました。それが『Listen Professional』です。

 

Listen Professional

 

 

 

Listen Professionalについて

Hi-Fi部門でも『LISTEN』というヘッドホンがあります。

今回の『Listen Professional』は、こちらとほぼ同一のデザインを採用しております。ただ、やはり業務用に向けて内部やチューニングは変わっています。

 

Professional部門の製品としての特色を挙げますと、まずは『Spirit Professional』で問題になった耐久性。

実際にプロの現場で問題になったところを解消する、というところに力を注ぎました。

 

やたら曲がる

 

このようにフレキシブルに動かしても破損しないくらいの耐久性。

Spirit Professionalで同じことをすると、すぐに割れてしまいます。……もしかしたら、1回くらいはできるかもしれないけど(笑)。

 

 

凄い……めちゃめちゃ曲がりますね。

 

 

次に、快適性というところにもこだわりました。

というのも、プロの方というのは長時間の作業が結構多いんですね。

特にレコーディングとかでは、何時間もヘッドホンを着けていることも普通にあります。

 

そのためにはまず、長時間つけていても快適であること。

そしてもうひとつ、長時間聴いていると耳が疲れてきますから、疲労による聴こえ方の変化を最小限に抑えること。

この2点に配慮して開発が進められました。

 

 

例えばこのイヤーパッドは、低反発素材を採用しています。

ヘッドバンドやハウジングも傷がつかないような加工を施していたりとか、ドライバーユニットもプロのモニター用として使えるナチュラルさを追求した新開発のドライバーになっています。

 

ですのでこれは、単純なSpirit ProfessionalのMKIIではありませんし、LISTENのマイナーチェンジでもありません。全く新しいものです。

 

 

おっしゃる通り、従来機とは全く違う印象を受けました。

『Spirit Professional』と『Listen Professional』はどちらもProfessional部門の製品ですが、

サウンドに違いを覚えるのは、FOCALの『フラット』の捉え方に変化があったということでしょうか?

 

 

イメージで言うとSpirit Professionalは『ダーク』で、Listen Professionalは『ブライト』な色合いになっていると思います。

しかし、あくまでFOCALの考える『フラット』なサウンドの範囲内の差になります。

 

 

なるほど。確かにそのような差に感じられますね。

『LISTEN』とはどのようなサウンドの違いが挙げられますか?

 

 

リスニング用のヘッドホンはあくまで楽しむための物で、聴いていて楽しい、心地良いということが大事です。

 

 

しかしプロユースの場合は、もちろんエンジニアが楽しめるのも大事ですけど、前提として『ツール』ですから。

正確に、フラットでナチュラルな音が聴けることがなによりも重要です。

 

 

 

ありがとうございます。

Professinal機として、本体以外の進化点はありますか?

 

 

非常に耐久性が高いキャリングケースが付属しています。

 

 

また、ケーブルも2タイプが付属しています。

標準ではマイク付きリモコンを搭載したストレートケーブルが接続されておりますが、

それとは別に、プロの現場で使われることが多い5mのカールコードも同梱されています。

 

キャリングケースの細かなポイントをピックアップすると、『iLok』の収納スペースを設けています。

 

 

iLok』?

 

 

はい。

コンシューマーの方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、DAW(音声制作ソフトウェア)のライセンスを入れておくUSBドングルのことです。

プロのエンジニアの方がご自身のスタジオで制作する場合はあまり関係がありませんが、移動される際に「iLok」を持っていかないと、出先で自分のライセンスを使えないということが起きてしまうんです。

 

 

なので、プロの方には「気が利くね!」と喜んでいただけるポイントですね。

iLokを家に忘れてきたり、逆に仕事を持ち帰って家でやろうと思ったら「iLokがない! 仕事にならない!」なんてことが、実際によくあるそうですから(笑)。

 

 

なるほど、それは嬉しいポイントですね(笑)。

Spirit Professionalのケースには、この『iLok』の収納スペースはあったのですか?

 

 

いいえ。Spirit Professionalには、ポーチしか付属していませんでした。

 

 

そう考えると、これもまた大きな進化ですね……!

 

 

 

Clear Professionalについて

それでは、続いてClear Professionalについてお話をお聞かせ下さい。

 

 

Professional部門の製品であっても、さらにハイエンドなものを求める方がいらっしゃいます。

そういうマーケットがあることが自分たちのリサーチでもわかっておりましたし、ユーザーさんからもリクエストが寄せられていたので、さらに上のProfessionalモデルを作ることに決めました。

それが『Clear Professional』です。

 

 

特徴としては非常に軽量で、下位機種との大きな違いはオープンバック(開放型)であるということ。

ミキシングやマスタリングの作業において、アコースティック的にコントロールされたスタジオなどで使われることを想定しています。

 

 

このドライバーユニットも専用のもので、素材にはアルミニウムとマグネシウムの合金を採用しています。

こちらはスピーカーを作るときに開発した技術を応用して作りました。

 

付属品としてはキャリングケースストレート&カールコードがそれぞれ付属している他、交換用のイヤーパッドも付属しています。

イヤーパッドはListen Professionalと同様に低反発素材が採用されていて、アコースティックな配慮がされています。

オープンバックであっても、クッションは非常に重要なポイントですから。

よろしければ、実際に装着してみて下さい。

 

 

 

開放型なのに、着けるとわずかに遮音されるような感じがしますね。

なんだろう、空調などのノイズだけがほどよく遮られるような感じがして、非常にしっくりくるというか……。不思議な感覚です。

 

 

『Clear Professional』で目指したポイントとして、私達が元々スピーカーメーカーということもあり、スピーカーで聴いている時と同じ感覚で聴けるという目標がありました。

もちろんオープンバックなので周りの環境に影響を受けるんですが、アコースティックが整っているところであれば、より良い。

 

ヘッドホンはスピーカーと同じくマグネットがあって、ボイスコイルがあって。基本的に同じ構造をしています。

先程申し上げましたアルミニウムとマグネシウムの合金のドライバーは、元々スピーカー用のツイーターの開発で作っていたものです。

それをフルレンジで、非常に低い周波数帯から上の周波数帯までフラットに再生できるように開発しています。

 

 

アルミニウム単体だと、素材の性質上仕方がないことですが、10kHz辺りからカーブが上がってしまいます。

これでは『ナチュラル』という意味では、違いますよね。

 

アルミニウムにマグネシウムを足すことで、若干重量が上がります。

それによってカーブが補正されて、いわゆるフラットさが保たれています。

 

あとは、『M型振動板』という形状を使用しています。

 

 

UTOPIA(※)』でも使われていましたよね。

 

※UTOPIA:FOCALのHi-Fi部門からリリースされている超高級ヘッドホン。

 

 

そうです。

ドームの周りが「M」のような形になっています。

 

 

まず、ドライバーにとって必要なことは歪みをできるだけ取り除くことです。

先ほどご説明したアルミニウムマグネシウム合金が歪みを少なくする要素のひとつ。

そしてもうひとつが『M型振動板』。これ自体が歪みを減らす形状なのです。

 

 

Professional部門の製品でありながら、

やはりHi-Fi部門のヘッドホンの技術が活きているわけですね。

 

 

おっしゃる通りです。

 

また、特色としてインピーダンスが非常に低いことが挙げられます。

スマートフォンでも使えますし、もちろん非常にハイエンドなヘッドホンアンプと使っても問題ないです。

インピーダンスが高いと、正しいパフォーマンスをちゃんと得るためにヘッドホンアンプを選ぶ必要があります。しかし、Clear Professionalではそういう必要はないわけです。

 

 

 

2つの『Professional』モデル

それでは、これらの2つのモデルの立ち位置についてご説明します。

 

どちらもフラットなサウンドというところでは変わりはないんですが、

Clear Professionalの方はやはりオープンバックであるということ、そしてハイエンド機であることが特徴です。

アコースティック的にコントロールされたような環境で仕事をするようなエンジニアが、自宅で最高の環境で音を聴きたいという、いわばHi-Fiのスピーカーに近い思想ですね。

本当に凝る方は部屋や家から作ってしまうような方もいらっしゃいますけど、そういったベストな環境に近づけられる製品だと思います。

 

一方、Listen Professionalは密閉型ですので、レコーディングライブパフォーマンスでもご使用頂けます。

単に音楽をスタジオのような環境で聴きたいといった方にもオススメです。こちらの方が幅広いシーンで使って頂けるでしょう。

 

 

ところで、気になっていたんですが……。

どちらのモデルにも赤の差し色が使われていますが、これには何か理由があるんですか?

 

 

 

Professional部門のスピーカーでSM6シリーズというものがあって、そちらの側板にワインレッドが採用されています。

モニタースピーカーは真っ黒なモデルが多い中、デザインとしては結構珍しいのですが、逆にそのレッドが「おしゃれだ!」と言って頂ける方が多いですね。

そのため、というのはFOCALのProfessionalラインを象徴するイメージカラーとして使われています。

 

 

では、エンジニアの方とかだと「ああ!」って、ピンとくるわけですね(笑)。

 

 

その通りです。

実はFOCALのスピーカーは日本のスタジオにも結構入っているので、日本のエンジニアの方もピンとくるんじゃないかな(笑)。

 

これらのヘッドホンを聴いた感想はいかがでしたか?

 

 

 

 

先ほどおっしゃっていた『ダーク』と『ブライト』じゃないですけど、かなりパキッとクリアなサウンドになったな、という印象でした。

以前の『Spirit Professional』のやや曇るような印象が晴れたというか。

 

 

ありがとうございます。

 

 

それでいて、より生々しくリアルになったように感じます。

モニターライクでかつ、ナチュラルさがある。Clear Professionalは特にそれが顕著ですね。

 

 

私達が開発する上で意識しているポイントのひとつが、残響の消え方です。

例えばプロの方が仕事をしていく上で、残響ひとつでボーカルの音の位置が変わるんです。

 

 

 

音楽制作では、2つのスピーカーで上下左右の位置奥行きを演出しなければなりません。

上下左右の位置は音域の配置やパンディングで調整が出来ます。

では奥行きはどうするかというと、残響で調整するんです。シビアなディレイやリバーヴをかけて調整していくので、残響感の表現力は精微にモニター出来るように気をつけています。

そこが結果として、ナチュラルな音像表現に一役買っているのだと思います。

 

 

以前の『Spirit Professional』は発売が2013年ですので、もう5年前ほど前のモデルとなります。

今回新たに2つのProfessionalモデルが発売となったわけですが、この5年という間隔に何か理由はあるのでしょうか?

 

 

FOCALはハイエンドな製品を目指しているということもあって、基本的な製品サイクルは長いです。

 

特にプロの世界に関して言うと、エンジニアさんにとってモニターというのは一番信頼を置いて仕事をするツールなので、基本的にはコロコロ変えるものではありません。

一度『良い』というものを見つけたら、その環境の音で自分を掴んで、出来るだけその環境を長く維持したいという風に考える方が多い。

そういう意味においても、完成度の高い製品を出して製品サイクル自体を長くするということが、FOCALの一番のポリシーですね。

 

 

現在はコンシューマーも含め、世界的に製品サイクルが早くなっている現状はあるかと思います。

そういったサイクルの中でも長く使えるような製品というものを、我々は作っていきたいと考えています。

 

 

ありがとうございます。

それでは最後に、この記事をご覧の日本のオーディオファンに向けてメッセージをお願いします。

 

 

FOCALのProfessional部門から新たに生まれた2製品、これはこれまでのFOCALのスピーカー技術や、Hi-Fi部門を含めたヘッドホン技術が積まれた音楽制作用のヘッドホンとして、その音質に絶対的な自信を持っています。

音楽が生まれる環境アーティストやエンジニアが聴いているというものを、ぜひ体感して下さい。

 

 

ありがとうございました。

 

 

 


 

 

メッツガーさん、ありがとうございました!

 

フランスの大手音響メーカー『FOCAL』が生んだ、珠玉のProfessionalモデル

その完成度を是非、皆様にもご体感頂けたら幸いです。

 

 

 

 

お相手はだいせんせいことクドウでした。それではまた次回。


 

取材協力:株式会社メディア・インテグレーション

 

※記事中の商品価格・情報は掲載当時の物です。