大先生です。
昨年のAuglamourR8発売以降、にわかに活気を帯びていた5,000円前後の高音質イヤホンブーム。
この価格帯のイヤホンも随分クオリティが上がってきたな、と思い始めた矢先、2016年末に発売された『intime 碧(以下、SORA)』は、それら全てを突き放すかのような圧倒的なクオリティで登場しました。
ダイナミックドライバにVSTを加えたハイブリッド構成でこの価格に抑えるという脅威のコストパフォーマンスは瞬く間に話題となり、第一次入荷分は年越し早々に完売。在庫が安定した今も安定して売れ続けているという、間違いなく『怪物クラス』のイヤホンです。
『こりゃァ、今年の低価格帯の覇者は決まったかな……』
年始からそんな予感を感じさせる出来栄えでしたが、その予想は良い意味で裏切られることになりました。
2017年5月、下は数千円台から上は60万円台という唯一無二のプライスレンジで知られるfinalより、低価格イヤホンシリーズ『E2000』&『E3000』が発売。
前年8月に発売していたFシリーズの意匠を次ぐようなミニマムな筐体デザインで、同社としては久しぶりのお手頃な価格のダイナミック型イヤホンとなりました。
明確にキャラクターの異なる2台はオーディオファン達の話題をさらい、低価格機とは思えない充実した付属品も相まって人気を博しているイヤホンです。
『今度こそ、しばらくはこれらで決まりだろう。次に話題の機種が出て来るとしても、きっとまた年末とか……』
そんな思いは、またまた打ち砕かれることになります。
2017年7月。下半期に突入してそうそう、またしても驚異的な低価格イヤホンが登場致しました。
EARNiNE EN120。
世界でも珍しい、自社でBAドライバーを製造しているメーカーのひとつ、EARNiNE。
既存の機種『EN1J』『EN2J』は隠れた名機的な存在でしたが、本機でついに脚光を浴びることになりました。
その特徴は何と言っても、自社でBAを製造しているが故の完全独自の筐体設計。
1BAでこの価格というだけでも驚きなのに、その卓越したサウンドバランスは爆発的に話題を呼んでいます。
そんなわけで、2017年もまだまだ折り返しというタイミングで揃ってしまった傑作たち。
すべてクオリティが高い反面、どれを選んだら良いのかわからないという嬉しい悲鳴も聞こえてきます。
今回はそんなラインナップの中から、見た目や音質傾向が近いイメージのあるSORA、E3000、EN120の3機種を比較していきます!
ビジュアル的に似ている3機種ですが、E3000とEN120がステンレスの削り出し筐体なのに対し、SORAは筐体素材が真鍮製。防錆のニッケルメッキにより、ステンレスのようなムラのない光沢を実現しています。
真鍮を用いたことにより本体重量も25gと、3機種の中では一番重くなっておりますね。
SORA | 25 g |
E3000 | 14 g |
EN120 | 18 g |
ただ、つるんと丸みを帯びた小ぶりなデザインなので、耳のくぼみにすぽっと収まります。ちゃんとフィットしていれば重みがそのまま安定感となり、案外使い勝手は良好。
逆に軽めの装着感を求めるのであれば、ステンレス製の2機種がオススメです。
付属品を比較してみましょう。
SORA | イヤーピース(S/M/L)、コードリール |
E3000 | イヤーピース(SS/S/M/L/LL)、イヤーフック、ポーチ |
EN120 | イヤーピース(S/M/L) |
こうして見てみると、やはりパッと見で充実した印象を受けるのはE3000。イヤホンポーチだけでなく、5サイズものイヤーピース(別売840円相当)やシリコン製イヤーフック(別売980円相当)まで付属するという大盤振る舞いぶりは流石の一言。
また、SORA付属の本革製コードリールもシンプルながら好評です。
試聴にはAstell&Kern AK300を使用しました。
まずは映画「ハイスクール・ミュージカル2」より『Bet On It』。
映画の中盤、主人公トロイが”自分を取り戻す”決心をする歌で、ザック・エフロンによる感情のこもったボーカル、そしてキャッチーなEDM調の楽曲が聴きどころ。
SORAで聴いてみると、イントロのバスドラムのブ厚い低音が沈むように響き、迫力満点。
この機種はVSTによる丁寧な高音域に注目しがちですが、中低音域担当のダイナミックドライバもかなりしっかりしています。
ボーカルも低音域に埋もれることなく、鮮明な分離感。また、ダンスミュージック系の曲調に移行していくにつれて、キレのあるSORAの音質傾向にマッチしていきます。
ここでE3000に切り替えると、低音の力強さは一歩引いた印象を受けつつも、ボーカルの生々しさは確実に向上します。
スネアやクラップの音がぐっと近づき、先述のボーカルも含めた中音域の満足感は一番高いと思います。
一方で傾向としてはややウォームな音で、他の2機種のような硬めの解像度の高さよりは、柔らかな響きを楽しむ感じ。
そして驚いたのがEN120。SORAほどでは無いものの、ダイナミック型であるE3000に迫るほどの低音域を出してくれます。
全体的にカラッとした音質で、特に金属音のディテールが秀逸。
ギターのディストーションやボーカルのエフェクトが一番しっかりと感じられ、全体的な解像度というか、細かな音の表現力は抜きん出ている印象です。
続いてゲーム「サクラ大戦3」より『御旗のもとに』。
オーケストラ調の壮大な合唱曲で、純粋に音数が多いことに加え、歌声を調和させつつ如何に上手く5人の存在感を表現するか、その解像力が問われます。オーケストラならではの迫力も欲しいところ。
まずはSORA。始まりのドラムロール、そしてバスによる迫力は見事。パーカッションの粒立ちやブラスの響きも美しく、純粋にオーケストラ楽曲に合うイヤホンなんだと思います。
ボーカルもオーケストラ隊の前に立って歌っているかのように確とした存在感を覚え、サビの5人によるハーモニーも素晴らしい分離感。
この曲はサビに入ってすぐの金管楽器群がややジリッとした響きになりがちですが、その辺りの処理も上手く、奥行きの感じられる綺麗な鳴らし方をしてくれます。
続いてE3000。ややウォームめのリバーブ感が心地よく、壮大な楽曲観にあった鳴らし方をしてくれます。
こちらもSORAと比べると楽器ひとつひとつの輪郭は少し甘くなりますが、その分柔らかく聴きやすい響きになります。
ボーカルも明確に5人が感じられるほどではないものの、非常に程よい距離で、総じて満足感の高いまとめ方をしてくれている印象。
最後にEN120。この曲だと低音域の迫力が少し弱く、流石にダイナミック型の機種との差が感じられます。
その分、中高音域の描写力に関してはトップレベル。ブラス系や金属音の美しさはまさに良質です。
ボーカルのセパレーションも丁寧で、全体的に「刺さる一歩手前」くらいまでプッシュしてくる強さはありますが、楽曲に合った音ですね。
3曲目は上白石萌音さんのカバーアルバム「chouchou」より『なんでもないや(movie ver.)』。ピアノとバイオリンのみのシンプルな伴奏で、ボーカルの響きをじっくりと感じられる一曲。
SORAで聴くと、小さなリップノイズやブレスから唇の動きが浮かび上がるほどにボーカルが生々しく、すぐ近くで歌っているような存在感があります。
その分伴奏の響きがやや真面目というか、表現が非常にストイックなので、ちょっと物足りなさを覚える部分もあるかも。
ここで見事な相性の良さを出してきたのがE3000。伴奏の響き方が明らかに変わり、ワンランク上の広さの部屋に移動したかのよう。
ボーカルはSORAと比べると少しだけ距離を置きつつも、伴奏との調和が心地よく、余韻がきわめて濃厚。堪りません。
そして、ちょうど中間のようなバランスで鳴らしてくれたEN120。SORAほど硬すぎず、E3000ほどウォームでない絶妙な滑らかさで、透明な声の質感が感じられるちょうど良さがあります。
こちらもサ行がやや刺さるか刺さらないかというギリギリなバランスですが、演奏・歌声の主張を真っ直ぐに届けてくれる素直な表現力があるので、高音域の主張の強さも案外に馴染み、あまり違和感がありません。
以上、3機種による比較レビューでした。
割とキャラクターの近いラインナップだと思っていましたが、いざ比べてみるとその差は一目瞭然。
露骨に苦手! っていうジャンルは感じませんでしたが、三者三様の鳴らし方をしてくれました。
簡単にまとめると、
といったところでしょうか。
お近くに店舗が無く、ご試聴頂けないお客様のせめてもの参考のひとつとなれば幸いです。
また、ご試聴出来る環境の方も、試聴楽曲でチェックするポイントとして意識してみても面白いかもしれません。
ともあれ、2017年もまだ半分という今、これだけの機種が出揃ったことは素直に素晴らしいことです。
どれも本当に完成度の高い機種ですので、ぜひぜひチェックしてみて下さいね!
お相手は大先生ことクドウでした。それではまた次回。