大先生です。

 

7月8日、e☆イヤホン秋葉原店に程近いカフェ・トリオンプにて開催された、e☆イヤホンMother Audioの合同発表イベント。

 

 

同ブランドのリリースイベントということで多くの方の関心を惹き、その後開催されたポタフェス秋葉原でも注目されたブランドのひとつとなりました。

 

 

今回はそんな発表イベントの様子をお届け。

りょう太×メーカーの方によるトークイベント、『e☆イヤゼミナール』が今宵も開幕です。

 

左からりょう太、リザイエの米田さん、北日本音響の上野さんと谷さん

 

今回お越し頂いたのは、Mother Audioの販売元となる株式会社リザイエの代表取締役・米田さん

 

 

そして開発元となる北日本音響株式会社の開発担当・上野さん、そして営業担当・谷さんの計3名。

 

左から上野さん、谷さん

 

まず、そもそもリリースされたばかりで皆様がご存じないであろう『Mother Audio』というブランドそのものについて、谷さんから語って頂けました。

 

今回Mother Audioというブランド・製品を開発するのは、先述の通り北日本音響という会社。山形県酒田市に本拠地を構える音響メーカーで、ポータブルオーディオ界隈では聞き慣れない名前かもしれませんが、実は同社はスピーカー開発に40年もの歴史があるベテラン企業です。

 

 

主にOEM・ODM(受注生産)などを行っているメーカーであり、各種スピーカー製品などの内部のスピーカーユニットを担当している会社。そんな北日本音響がこの度初めてオリジナルブランドとしてリリースするのが『Mother Audio』というわけですね。

 

そして「今、完全に自社開発でスピーカーユニットを作っている会社は本当に少ない」というのはリザイエの米田さん。国内外問わず、自社のみでユニット製造をまかなえているメーカーは限られてきており、そういったところに40年間ドライバーユニットの供給を続け、名前が出ないながらも影でオーディオ業界を支えてきた北日本音響の技術力は素晴らしいということでした。

 

イヤホンの内部ユニットも、言ってしまえばスピーカーユニット。……とはいえ、ことはそう単純ではありません。通用できるノウハウがあるとしても、根本的には似て非なるもの。北日本音響はこの『Mother Audio』ブランド設立にあたって初めて、小型のドライバーユニットを含むイヤホンの開発に着手したのだとか。

 


 

次にりょう太が気になったのは、『Mother Audio』という名前の由来

洗練されているというか、既に海外とかでありそうでなかった名前です。それについても説明してくれた谷さん。

実は、このブランド名を付けたその人こそが谷さんなんだそうです!

 

 

谷さんがブランド名に『Mother』の名を冠した理由は2つ

 

普段からスピーカーを開発するにあたり、音について考えている中で谷さんは「『自分が生まれて初めて聴いた音』って、なんだろう?」と考えました。学生時代、幼少期……。そう遡っていく中で、行き当たったのは『母親の胎内』。人が最初に聴く音は『母親の鼓動』なのではないか。谷さんはそう考えついたそうです。

 

そして、Mother Audioのキャッチコピーにもなっている『When you listen to something, Sound goes to Mother Earth.』。

意訳すると、『何かを聴いた時、音は地球へ還って行く』。これを付けたのも谷さんです。たとえば動物が何かを食べ、糞をする。それは肥料となって植物が育ち、地球を循環していきます。であれば、『人が音を聴いた時』はどうなるのか? 谷さんはそう考えました。

 

「少し哲学的になっちゃいますが」と笑う谷さん。しかし、その眼は何より真っ直ぐだった

 

音に形はありません。しかし、人が聴いた音は経験として身体に残り、それはいつしか地球全体の経験として還元されていくのではないか。

母の鼓動で『音』を知った人々は、やがて多くの音楽に触れる。そしてそれは母なる大地へと還っていく。

そんな2つの『』から付いた名前こそが『Mother Audio』。

 

人は初めて音を――母親の鼓動を――聞いた時のことを覚えてはいないかもしれません。しかし、初めて音を知ったという感動は身体が覚えているはず。そんな『ファースト・インパクト』を思い起こさせるような音作りこそが、Mother Audioの製品理念なのです。

 

 

 

 

深い……。

 

 

 

聞いてみたはいいものの、予想以上に深くてビビりました」とりょう太。Mother Audioの壮大な世界観の片鱗を垣間見たようです。

 

 


 

そんなMother Audioが、そのブランドの始まりとして用意したラインナップは2機種

これらは開発に2年半近い年月をかけて生み出されたそうで、いくら40年スピーカーユニットの製造を手がけてきた北日本音響とはいえ、これはかなり長いプロジェクトでした。

最初は半年くらいで作っちゃって販売しようと考えていた」と語るのは、北日本音響で開発を手掛けたその人、上野さん。

実は、本当は去年(2016年)の12月のポタフェスにも出展したかったそうなのですが、それも叶わないほど開発が難航したようでした。

 

 

スピーカーという音響機器を手がけてきた経験から、「イヤホンの開発もまあ出来るだろう」と考えていた上野さん。しかし、いざ実際に手を出してみると、その考えが甘かったと思い知らされたと言います。

 

開発を続けていくうち、スピーカーに入っているドライバーユニットと、イヤホンに入っているドライバーユニット、どちらにも共通して言える大事なことは『バランス』であると上野さんは気づきました。

マグネットや振動板が大きければ良い訳ではない。そういったところから手探りで色々掴んでいったそうです。

 

そして、調整出来る部分がスピーカーシステムと比べても少ない分、また異なったノウハウが必要となることにも苦労しました。

スピーカーは内部容積が大きい分、吸音材やダクトの調整などで比較的容易に音質を調整することが出来ます。しかしイヤホンは、一度ハウジングの型を作ってしまうと、そこからの調整は非常にシビア。

最初は「こんなものでいいか」としてざっくり設計していたものの、イヤホンのハウジングはわずかな精度の甘さで大幅に音が変わります。

3万円程度の価格を想定して作っていたはずのイヤホンをブラインドでテストしてみたところ、皆から一様に「3000円くらい?」と答えられ、それが非常に悔しかったとか。その経験をバネにして、今回の完成に至ったというわけですね。

 


 

さて、ここで改めて浮かぶ疑問について。

40年間OEM・ODMとしてスピーカーユニットを作り続けてきた北日本音響。そんな会社が満を持してリリースする初の自社ブランド『Mother Audio』が、そもそもなぜイヤホンなのか? これは、スピーカー製造を長年続けてきたが故のこだわりと、マーケティング的な現実のジレンマに悩まされたという理由があるそうです。

 

スピーカー製造において音作りにこだわっていくと、どうしても行き着くのがユニットのサイズの壁。Mother Audioとして理想の音を追求するには、どうしても直径15インチ(約38cm)以上のユニットを使わないと納得が行かないのだと言います。

「スピーカーシステムには、こだわっていくと必ず直面する『大口径にしか再生出来ない低音』の存在がある」という米田さん。開発者である上野さん自身もオーディオマニアですので、もしスピーカーをデザインするのであれば、そういったスペックの妥協は出来ません。

 

「オーディオマニアとしては絶対に譲れない部分」と熱弁する米田さん

 

しかし、今度はそうなると気軽に持ち運ぶような運用が困難になってきます。現代のニーズとしてはあまり主流ではなく、多くのお客様に日常的に使って頂くにはどうしても不相応なスペックやサイズになってしまうのです。

最近だとBluetoothスピーカーなどのブームもありましたが、長年あらゆるスピーカーを作り続けてきた同社のこだわりとしても、そういったカジュアルなスピーカーは作りたくなかった。

 

そんな時に出会ったのが、『ME8』のハウジングにも使われている素材――『液体合金金属』でした。

 

『ME8』のハウジング部。滑らかな光沢が目を引く

 

チタン以上の剛性硬度を持ち、音響特性としても外装素材としても優れた性質を持つ液体合金金属。

これに出会った上野さんは、この素材を何かに使えないだろうか? そう考えました。

現在の液体合金金属の製造工程を踏まえると、スピーカーのような大きなパーツを製造するには困難。そうした思考を続けた上で行き当たった答え。それがイヤホンだったのです。

 

自分たちの技術で、この素材で、イヤホンを作ったら。

一体どんな音が鳴るのだろう?

 

いつしか上野さんには、好奇心にも似た興味が湧いてきました。

スマートフォンや音楽プレイヤーの普及によりポータブルオーディオが爆発的に浸透した現在において、イヤホン事業というのは非常に厳しい分野。

それでもなお、挑戦してみよう。40年の節目を迎えんとする中で、そんな想いが固まったのです。

 


 

さて、そんな経緯で開発された2機種について触れて参りましょう。

 

上位機種となる『ME8』には、先述の通りハウジングには液体合金金属が採用されています。

しかし、液体合金金属を成形するには金型が必要。実は金型というのが開発においてもトップクラスにコストがかかります。そのうえ、液体合金金属は通常の金型並に硬いため、より特殊な金属を用いた金型を製作する必要があり、とても気軽にポンポンと金型を試作することは出来ません。

そのため、まずは真鍮でハウジングの内部構造の開発を始めました。十数種類を超えるテスト品を作り、「こういう特性の素材をこう加工するとこういう音が鳴る」というものを掴んでいったと言います。

 

振動板にベリリウム(製品にも使用されている素材)を試してみたり、色々試行錯誤を続けていく中、『真鍮も結構良い音が鳴る』と気付いた上野さん。

真鍮モデルも良いかもしれない」。真鍮を採用することは音質面のみならず、製造コストを抑えることが出来るという予算上のメリットもありました。

そんなわけで、実は副産物的に産まれたモデルこそが『ME5』だったのです。

 

ME5のハウジング。真鍮にニッケルコーティングが施されている

 

本来は『40年間のスピーカー開発技術の粋を尽くした、既存の物とは一味違うサウンドを提供する』という志のもと、10万円クラスのハイエンド機として開発が進んでいたMother Audio。しかし、副次的に『ME5』が完成したことにより、偶発的なスタンダード・モデルが誕生しました。

その音は、いわゆる『現代的な流行りの音』を、Mother Audio流のスピーカーライクなサウンドにアレンジする。

ただの下位機種と侮るなかれ。上記の志は、ことME5においても如実に受け継がれているというわけです。

 

 

 

さて、これらのモデルの価格はそれぞれ、ME5が34,800円、ME8が111,800円となっています(それぞれ2017年7月現在)

 

 

この違いについても教えて頂けました。

 

内部ドライバーユニットに関しては、どちらも『9.2mm径ベリリウムコート振動板』を採用しております。しかし、実はそれぞれ微妙に異なるドライバーが採用されているそうです。純粋なハウジングの差ではなく、それぞれに合わせた設計がされているとのこと。

 

ケーブルはどちらもMMCXによる着脱式。両方細めのツイスト構造になっておりますが、こちらは今回のプロジェクトにあたって新規で開発されたものだそうです。

 

ME5のケーブルにはリッツ線を使用。12本ものリッツ線をツイストしたものを被膜で覆い、それをさらにツイストして仕上げています。取り回しにも優れ、使い勝手の良いケーブルになっていますね。

ME5のチューニングにあたって意識したのはソリッドさ。鋭くカチッと作り込まれたサウンドを目指しました。

 

 

ME8のケーブルには銀メッキ銅線を使用。こちらはフラットな形状に加工した4本の銀メッキ銅線を被膜で覆い、それをさらにツイストして仕上げたものです。また、銀メッキを施すことで高域が調整されています。

ME8のチューニングでは、ME5の音質設計に加えて繊細さをプラス。より細かく精密な表現力を可能としています。サウンドの奥行きも更に深くなっているとのこと。

 

 


 

これらの製造工程には、ハイエンドオーディオを含むあらゆるスピーカーを製造してきた北日本音響ならではの精密で手間のかかるプロセスが採用されており、正直採算としては結構ギリギリなのだとか。

しかし谷さんと上野さんはなんと、『僕らは儲けるためにやっているわけではないので、大丈夫です』と断言しました。

 

「それ言っちゃうんだ!」と笑う2人

 

というのも、北日本音響の2人がこのプロジェクトに懸ける想いはそれだけ強いということ。

まずはこの『Mother Audio』というブランドを知ってほしい。ひたすらスピーカーユニットを作り続けてきた会社による技術ノウハウ、そして意地プライド。いわばデビュー作にしてシグネイチャーモデルといっても過言ではない程の情熱手間を注ぎ作られたこの2機種を、まずは聴いて欲しいというのです。

 

「儲けるためではない」という言葉には苦笑していた米田さんも、この想いには同調します。

「事実として、北日本音響が持つ40年間の開発能力の全てを注ぎ込まれたMother Audioの完成度は別格。流通している既存のイヤホンとは違う、このブランドならではのサウンドが作れたと思います」と太鼓判を押すほどです。

 

これらの2機種は、既にe☆イヤホンでも試聴機展開・販売が開始されています。

ご来店の折にはぜひ、ベテラン国内メーカーが生み出した新境地をご体感下さい。

 

 


 

そして、もうひとつ。

実は現在、これらの2機種のいずれかをご購入頂くと、特典としてミニアルバムをお付けしております。

 

 

宮良牧子『Mother』。

沖縄県出身のシンガーソングライターによる、Mother Audioのイメージソングです。

日本郵政のコンピレーション・アルバムへの参加を皮切りに、ドラマ・映画のサウンドトラックや主題歌にも参加している宮良さん。その魂を揺さぶるような暖かく力強い歌声を、米田さんは『Mother Audio』という名前を聴いた時に連想し、すぐにオファーをしたと言います。

 

米田さんがオーダーしたのは、一児の母である宮良さんが自らの子供へ、そして石垣島で暮らす宮良さんのお母さんへ向けた歌2つの『Mother』をコンセプトとした楽曲です。

 

レコーディング&ミキシングには高音質録音を得意とするエンジニア・赤川新一氏を米田さんが直接指名。

オーディオ好きの皆さんのリファレンスとして加えて頂けるような、高品質かつ心に残る1枚を作りたかった」米田さんはしみじみとそう語っていました。

 

 

こちらのCDは非売品となっております。お買い逃しのないようにご注意下さいませ。

(※数が無くなり次第配布終了となります。予めご了承下さい)

 


 

以上、e☆イヤゼミナール『Mother Audio』のレポートでした。

40年の歴史を持つスピーカー製造の老舗・北日本音響による渾身のイヤホン。

興味を持たれた方はぜひ、チェックしてみて下さいね。

 

 

お相手は大先生ことクドウでした。それではまた次回。